資産運用

マンションの価値を見直す(3)新築マンションの販売価格の推移

マンションの価値を見直す(3)新築マンションの販売価格の推移

前回は、新築分譲マンションの原価の仕組みについて、簡単にご紹介しました。今回は、前回の続きとして、実際の東京都内の新築分譲マンションの工事費と地価の推移をもとに、分譲マンション1戸当たりの価格の推移を算出してみることにします。

建築工事費としては、東京都内の新築分譲マンションの1m2当たりの工事費の平均値のデータを用い、土地代としては、東京都区内の住宅地の地価公示価格の平均値を用います。これらの昭和59年から平成19年までの推移をグラフにすると、図1のようになります。

これらのデータを用いて、各年の新築マンション1戸当たりの価格を以下のように求めます。

・土地総額=4,000m2×各年地価公示価格

・工事費総額=8,000m2×各年建築工事費単価×1.15

・1戸当たり原価=(土地総額+工事費総額)÷104戸

・1戸当たり販売価格=1戸当たり原価÷(1-デベロッパー粗利率0.2)

なお、工事費総額で、各年度の建築工事費単価に1.15を乗じているのは、消費税や設計料などの諸経費を含むためです。

このようにして求めた新築マンション1戸当たりの販売価格(専有面積70m2)の計算値の各年の推移をグラフにすると、図2のようになります。

上記をみると、同じ70m2の新築マンションでも、そのマンションの建設時の土地価格や建築工事費の変動により、大きく値段が変わることが分かります。

分譲マンションの新築価格は、上記のような原価の積み上げで決まってきますが、一方では、分譲市場による需要の強さ、すなわち、売れ行きによっても影響を受けます。例えば、景気の落ち込みなどで、売れ行きが落ちてくると、所定の粗利率を確保することよりも、在庫を減らすために、値引きをして販売するケースが多くなる訳です。

次に、分譲市場での実際の新築マンションの販売価格と、上記の原価から求めた計算値の比較をしてみることにします。都内の新築マンション価格(70m2換算)の実績値および年収倍率のデータ(平成15年~平成19年)をもとに、上記の原価から求めた新築マンションの価格と比較を行うと、次の通りです。

表1を見ますと、原価から計算した新築マンションの価格よりも、実際の新築マンション価格(実績値)の方が、若干高めであり、また、平成18年以降の価格の上昇も急であることが分かります。こうした差異はありますが、地価や工事費などの原価の上昇に併せて、新築マンション価格の実績値も上昇することが、確認できると思います。また、実績値のデータの方が、変動率が大きいのは、地価の上昇時は、マンション敷地の仕入れが競争になるので、地価公示を相当上回る価格でないと土地の仕入れができないことなどが影響しているものと考えられます。

一方、70m2新築マンションの年収倍率をみると、平成19年には9.85と、10倍近くまで上昇し、一般的な年収のサラリーマンでは、とても手に届かない価格まで上昇していることが分かります。こういう状況になると、マンションの売れ行きは落ちてきて、結果的に、新築マンション価格の平均値は下落することが多いようです。実際に、平成20年の70m2新築マンション価格(実績値)は、5,561万円と下落し、平均年収倍率も9.11とやや低下しています。

このように、新築マンションの価格は、土地価格や建築工事費などの原価の動向によって影響を受けるとともに、実際の分譲市場での販売動向や、購入者層の年収の動向によっても影響を受ける訳です。ですから、新築マンション価格が上がったからといって、新築マンションそのものの建物としての価値や機能が上がっている訳ではないのです。

博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。

株式会社アークブレイン

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