資産運用

マンションの価値を見直す(2)マンションのストックとその耐震性

マンションの価値を見直す(2)新築マンションの原価

マンションの価値を見直す上で、今回は、新築マンションの原価について探ってみることにしましょう。

新築マンションの原価は、大きくは、土地代、建築工事費、そして、マンション開発と分譲を行うデベロッパーの経費の3つの項目から構成されています。具体例をもとに、考えてみましょう。

例えば、面積4,000m2で、容積率200%の土地があったとします。容積率というのは、敷地面積の何倍までの建物が建つのかを決める比率で、都市計画によって決まっています。この土地に、容積率一杯のマンションが建ったとすると、そのマンションの延床面積は、4,000m2×200%=8,000m2となります(正確には、容積率で上限が決まる建物の面積は、容対面積と言われ、建物の延床面積とは異なります。例えば、共同住宅の内部共用廊下や階段の面積、建物の延床面積の5分の1までの駐車場面積などは、建物の延床面積には入りますが、容対面積には含まれません)。

しかしながら、その8,000m2全体が、そのマンションの販売面積になる訳ではありません。マンションで販売対象となる面積は、マンションの住戸部分(専有部分と言います)だけです。この専有面積の合計値の延床面積に対する比率を、有効率と言います。

つまり、延床面積×有効率=専有面積の合計 となる訳です。

今、このマンションの有効率が91%だったとすると、このマンションの専有面積の合計は、8,000m2×91%=7,280m2となります。そして、このマンションの戸数が104戸であれば、このマンションの住戸の専有面積の平均値は、70m2になります。

次に、このマンション1戸当たりの土地価格と、建築工事費を求めることにしましょう。

まず、土地価格から考えます、このマンションの分譲を行うデベロッパーが、この土地を、1m2あたり500千円で取得したとします。そうすると、取得総額は、4,000m2×500千円/m2=2,000,000千円となります。マンション1戸当たりでは、2,000,000千円÷104戸=19,230千円となります。実際には、土地の仕入れには、仲介手数料等の経費がかかりますが、ここでは、上記の土地価格に含まれているものとして計算します。

次に、建築工事費を考えます。このマンションの延床面積1m2あたりの建築工事費を250千円とすると、マンション全体での建築工事費は、8,000m2×250千円/m2=2,000,000千円となり、マンション1戸当たりでは、2,000,000千円÷104戸=19,230千円となります。実際には、建築工事費以外に、設計料や地盤調査費、測量費などの経費もかかりますし、消費税もかかりますが、ここでは、上記の建築工事費に含まれているものとして計算します。

こうして、このマンション1戸当たりの土地代と建築工事費が、それぞれ、19,230千円と19,230千円と求めることができました。

次に、デベロッパーの経費について見てみることにしましょう。デベロッパーが分譲事業を実施するためには、広告宣伝費や販売費などの販売に要する費用、事業期間中の金利、企業としての一般管理費などの経費が掛かります。これらの経費とデベロッパーの利益を併せたものを、デベロッパーの粗利と呼びますが、これは、売上高すなわち分譲総額の20%~25%程度になります。

ずいぶん利益幅が大きいと思われるかもしれませんが、販売に要する経費が分譲総額の6%~8%程度、金利や諸税などの実費が分譲価格の3%~4%程度、さらに、デベロッパーの一般管理費が5%程度はかかりますので、デベロッパーの純利益は、分譲総額の5%~10%程度です。この利益の範囲内で、分譲事業の様々なリスク(売れ残りや建設費の高騰、販売価格の下落等のリスク)を負う必要があり、リスクに見合った利益幅と考えられます。

今、仮に、デベロッパーの粗利率が分譲総額の20%であるとした場合、上記の計算例で、分譲マンション1戸当たりの分譲価格を計算すると、次のように計算できます。

○1戸当たりの原価=土地代+建築工事費=19,230千円+19,230千円=38,460千円

○1戸当たりの分譲価格

=1戸当たりの原価÷(1-デベロッパーの粗利率)

=38,460千円÷(1-0.2)=48,075千円

つまり、原価38,460千円のマンションの1戸当たりの分譲価格が48,075千円であれば、デベロッパーは、20%の粗利を確保できる訳です。

このように、新築分譲マンションの販売価格は、原価の面から見れば、土地の仕入れ価格、建築工事費、およびデベロッパーの粗利によって決まることが分かります。

博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。

株式会社アークブレイン

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