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賃貸中の不動産を売却する際の留意点

ご所有不動産の売却を検討されているオーナーの中には、「賃貸中の不動産は売却する際に支障があるのではないだろうか」と考える方もいらっしゃると思います。今回は賃貸中の場合、不動産の評価や売却にどのような影響があるのかを考えます。

記事作成日:2023年6月12日
記事公開日:2024年3月31日
記事改訂日:2024年3月31日

賃貸中の不動産の評価や売却にあたっては、「賃借人がいるかいないか」、またサブリースか普通借家契約かといった「賃貸借契約の種類」が重要なポイントとなります。この2つの視点から、不動産の評価や売却にどんな影響があるのかを見ていきましょう。

貸借人がいる場合は「収益還元法」、
貸借人がいない場合は「取引事例比較法」で評価

まず賃貸不動産は、賃借人がいる場合といない場合で評価が変わります。なぜならば、賃借人の有無で、その不動産の購入検討者が変わり、それにより評価方法も変わるからです。

賃借人がいるケースでは、購入検討者は主に賃貸収入を目的とする投資家や事業法人、不動産会社となります。彼らは賃貸収入を目的としていますので、投資額に対するリターン、「利回り」で不動産を評価します。この評価方法は、収益還元法という考え方です。実際に受領している賃料収入の多寡によって不動産の評価が変わるため、周辺の相場より低い金額で貸している場合は評価が低めに出て、逆に相場より高い賃料で貸している場合は評価が高めに出ます(図表1)。

例えば、ある投資家が賃貸中の不動産を「還元利回り5%になる金額で購入したい」という前提のもとで評価した場合、その不動産の年間純収益が500万円であれば購入希望価格は500万円÷5%=1億円です。もしも年間純収益が600万円であれば600万円÷5%=1億2,000万円となります。つまり、売主にとっては高い賃料で貸せているときの売却が有利ということです。

一方、賃借人がいない、または立ち退き時期が確定している不動産の場合は、その建物を自用する方や、1棟物件の場合は建て替えて新たに事業仕様とする方が主な購入検討者となります。その場合の評価は、基本的には近隣で同じような物件が最近いくらで成約したかを参考に算出する、取引事例比較法という考え方で行います。「近隣の土地が坪150万円で成約したようだから、ここは50坪で7,500万円くらいかな」という推測は皆様もなさるのではないでしょうか(図表2)。

では、例えば総戸数10戸のアパートのうち、5戸は賃貸中、5戸は募集中というようなケースではどうでしょう。多少賃料を下げてでも10戸を満室にし、投資家を購入検討者のターゲットとするほうがよいのでしょうか。あるいは5戸の賃借人に引っ越し費用を渡して転居してもらい、自用を目的とする方をターゲットとするほうがよいのでしょうか。こうしたケースの場合は、双方を比較検討し、どちらのほうが評価が高くなるかを見極めることが重要です。

3種類の賃貸借契約と、それぞれの売却時の留意点

次に、もう1つのポイントである「賃貸借契約の種類」による売却への影響を考えてみましょう。
賃貸借契約には、「サブリース」「普通借家契約」「定期借家契約」などの種類があります。

サブリース時は解約スケジュールに留意

「サブリース」の場合、期中でのサブリースの解約が難しい、もしくは違約金が発生することがあります。売却を検討する際はサブリース契約書を確認し、条件を把握します。解約に予告期間が必要な場合は、それを踏まえて売却活動をスタートすれば、サブリースの解約と同時に売却(所有権移転)するなどスケジュールの調整が可能です。また、最初から購入検討者に一定期間サブリースを承継してもらうことを条件にする方法もあります。

一方で、サブリース契約期間満了を待ってから売却を検討すると、マーケットの状況が変わってしまう可能性があります。現在のような活況なときに売却を検討されるのであれば、サブリース期間にかかわらず、まずは専門家にご相談ください。

普通借家契約は現在の賃料相場に注目

「普通借家契約」の場合、所有者にとって重要なのは現在の賃料が相場と比べてどうかということです。
相場よりも安く賃貸している場合、前述の通り、収益還元法では評価が低くなります。評価を上げるためには、賃借人との契約を解消し、自用目的の方をターゲットとするか、マーケットなりの賃料で新たに賃貸借契約を結んでから売る必要があります。

しかし、このようなケースでは、賃借人の転居先が今の賃料水準ではなかなか見つからないため、転居し、契約解消をしてもらいにくいことがあります。そのうえ、普通借家契約では、旧耐震で建て替えの必要があるなどの賃借人が立ち退きに応じるべき正当事由がない限り退去してもらうことは難しいと言えます。

よって、普通借家契約で相場より賃料が安い場合は、安易に同条件での契約更新を行わず、賃料を上げる、もしくは賃料を上げない代わりに定期借家契約に切り替えるなど、数年単位で対策を講じる必要があります。

定期借家契約ならば退去時期が確定できる

「定期借家契約」は昨今、事業用だけでなく、居住用でも増えてきています。あまり短期だと賃借人が決まりにくかったり、賃料交渉が入ったりすることもありますが、一定年数以上であれば普通借家契約と変わらない水準で賃貸しているケースも多くなっています。また、自用目的の方をターゲットとしたい場合も、定期借家契約は購入者が自用できる時期が確定しているため、評価が大きく下がることなく、売却することが可能です。

一定期間で賃貸借契約がリセットできるのは、法律が賃借人保護を優先する日本において、賃貸人の権利の保全にもなると言えます。現在、賃貸中の不動産を所有している方は、数年後、十数年後にその不動産をどうしていくかという先々の計画と照らし合わせながら、今からできることを考え、着手するのがよいでしょう。

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このように、賃貸中の不動産は賃貸中であることが評価にプラスになることもマイナスになることもあります。賃貸状況について長期間見直しをしていない場合は、現状維持がよいのか、他の方向性を考えたほうがよいのか、専門家に相談のうえ、見直しをされることをお勧めします。


三井不動産リアルティ株式会社
ソリューション事業本部

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