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建物規模最大化だけではない“かしこい選択肢”「価値」を引き出す新築・建て替え検討術【第2回】

前回は、建物経営においては建物規模を最大にして収益を上げるだけでなく、利回りや手残り金額、自身のライフスタイルや周辺環境への影響、さらに相続対策や引き継ぐ方の気持ちなどの観点から総合的に検討したうえで建物の規模を考えることが大切であるとご紹介しました。では、建物規模最大化以外の有効な活用法にはどのようなものがあるのでしょうか。今回は、土地の「価値」を引き出すとともに、自身の考え方や希望に合わせた5つの活用法をご紹介します。

記事作成日:2023年6月12日
記事公開日:2024年3月31日
記事改訂日:2024年3月31日

Case01 間口が狭い土地

建物規模よりも利回り(投資効率)に注目
間口が狭い土地はプランの制約にも留意が必要

より大きな建物を目指すべきか否かを判断する大きなポイントの1つは、土地の形状です。例えば、間口が狭く細長い土地に建つ既存建物を解体し、新たに賃貸物件を建てるケースについて考えてみましょう。間口が狭い土地の場合、重機が入りにくいなどの理由から既存建物の解体費が高額になる可能性が高くなります。

また、新たに建築する建物はどうしても細長くなり、階数を増やすほど構造的に負担がかかるため、補強や地盤改良が必要になることもあります。こうしたことから、間口が狭く細長い土地は一般的な土地よりも建築コストが割高になる傾向があります。建築計画を2階建てから3階建てにすると床面積は1.5倍になり、期待される賃料もそのぶん増えますが、建築費がそれ以上の割合で高くなってしまうこともあるので注意が必要です。

一方、賃料は周辺の相場があるため、建築費がかかったからといって、そのぶん賃料を上げて回収しようとするのは限界があります。制約のある土地においては、容積めいっぱい使って大きな建物を建てるよりも、建物規模を一定に抑えたほうが利回り(投資効率)がよくなることがあります。

建物規模を変えて複数パターン検証し、建物規模を抑えても自身の期待する利回り・手残り金額が得られるのか、それともやはり大きな建物を建てて収益最大化を目指すのかを考えましょう。

老朽化物件の維持管理に苦心し、建て替えを検討

建築費が高くなる一方、賃料があまり伸びない場合、階数を減らすのも選択肢の1つです。台東区で建ぺい率80%・容積率600%の土地に建つ商業ビルについて、レッツにご相談いただいたA様の事例を見てみましょう。

1階は店舗、2階~5階はオフィス(各フロア2区画)として貸し出していましたが、築30年を過ぎたころより天井からの漏水や外壁タイルの剥落が見られる、トイレや換気扇の交換が必要になるなどし、入居率も徐々に低下してきました。A様も不具合が生じるたびに建設会社に修理を依頼したり、見積もりを検討したり、提案された修繕工事の是非を判断したりなど、維持管理の手間や負担が増大していくことに疲弊しておられました。

そこで大規模改修を行うことを考えましたが、間口が狭く敷地のぎりぎりまで建物が建っているため、足場を組むスペースがとれないなどの課題があり修繕工事も困難な状況でした。また1フロアにトイレが男女合わせて1つしかないなど建物の造り自体が古いため、資金を投じて大規模改修を行ったとしてもテナントの入居率が向上する可能性は低いと考えられました。こうしたさまざまな状況を勘案した結果、A様は建て替えを検討することとしたのです。

木造2階建てで投資を抑えた建て替えに成功

本土地の容積率は600%で、道路斜線を考慮しても7階建てまで建設が可能です。レッツでは比較検討のため、1階店舗・2~7階を住戸とした容積率めいっぱいのプランと、2階建てで1階に店舗・2階に住戸を配するプランをご提案しました。図表3は両プランの収支をまとめたものです。

まず、RC造7階建ての建物を建設するケースを見ていきましょう。このプランでは延床面積が600㎡、容積率は600%中500%を消化します。建築費、概算諸経費などを含めた総事業費は約3億9,000万円です。年間の収支を見ると、ローン返済後の手残りは約560万円で、表面利回りは7%です。利回りは決して低くありませんし、手残りも将来必要となる修繕費を積み立てていける水準です。このプランも十分に選択する価値があるでしょう。

対して、2階建てのプランはRC造ではなく、木造で建築できます。延床面積は168㎡、容積率は上限600%に対して140%とします。このプランでは、総事業費が約7,720万円、全額借り入れをすると、ローン返済後の手残りは約230万円で、表面利回りは10%となります。年間の手残りは7階建てより300万円以上少ないですが、図表3の通り、総事業費を大幅に抑える一方で利回りは高くなります。

A様は利回りを重視しつつ、そして管理に手間がかからない物件にしたいという意向が強かったことから、木造2階建てのプランを選択されました。もちろん手残りを重視するという方向性もありますし、現在は建物の維持管理がしやすいよう配管を工夫することなどができるため、建物規模が大きくても維持管理の負担を軽減することが可能となってきています。そのため、オーナー様によっては同じケースで7階建てを選択することも十分考えられます。

土地の売却を検討したこともあったというA様ですが、今回の計画を実行することで先祖代々引き継いできた土地を守ることができました。また、A様はレッツからの提案について「賃貸経営をするなら可能な限り大きな建物のほうがよいと思っていましたが、プラン次第で小規模な建物でも経営が成り立つことを知って前向きになれました」とおっしゃっていました。

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