資産運用

あなたは「不動産投資」を具体的に説明できますか?

前回のコラムでは資産としての「土地」をめぐる考え方の変遷を振り返りましたが、時代は明らかに「土地活用」から「不動産投資」へと移りつつあります。では、そもそも「不動産投資」とはどのような行為を指すのでしょう? 今回は「不動産投資」をおさらいします。

今回は前回コラムに引き続き、不動産投資についての話です。はじめに質問があります。

資産としての「土地」と、その活用の変遷を振り返る

あなたは、次の経済行為を「不動産投資」だと思いますか?

(1)値上がりを期待して、新駅予定地の近くに土地を買う

(2)所有している空地に、賃貸アパートを建てる

(3)投資用ワンルームマンションを買う

さあ、いかがですか。

答えを見る前に、まず、「不動産投資」に限らず、一般に「投資」というものはどんなものなのか、考えてみることにしましょう。

一般に、「投資」とは、「現在手に入る現金を手にする代わりに、将来、それ以上の効用を手にすることを期待する行為」と定義することができます。たとえば、現金100万を持っている人が、それを銀行に預けて、1年後に1%の利子が付いて、101万円を手にすることは、立派な投資行為です。もちろん、もっと大きな収益を期待して、銀行預金ではなく、株式を購入することも、典型的な投資行為です。

さて、ここで、上記の「投資」には、明確な特徴があります。一つは、投資には、必ず、「期間」があることです。2つ目は、その期間が経過したときには、必ず、投資対象(上記の例ですと、銀行預金や株式)を現金化(売却)することです。そして、3つ目は、現金化した結果、その投資期間に応じた投資の効率性を計ることができるということです。つまり、「投資期間」、「現金化」、「投資効果の測定」の3つが、「投資」という概念には不可欠な要素なのです。というのは、こうした3要素があれば、異なる投資案どうしを比較検討し、最も有利な投資案を選択することが可能になるからです。

それでは、こうした「投資の3要素」の観点から、最初の質問の3つの行為を検証してみましょう。

まず、(1)は、土地の値上がりを期待しての経済行為ですが、投資期間は定かではありません。また、仮に値上がりした後に売却するかどうかもはっきりしていません。つまり、現金化のシナリオ(これを、「出口戦略」と言います)が明確でありません。したがって、その行為の効果も測定することはできません。つまり、(1)は、投資の3要素のいずれも満たさないため、当然、「不動産投資」には当てはまらないことになります。

次に、(2)を見てみましょう。空地へのアパートの建設には、やはり、投資期間が明確にはありません。強いて言えば、アパートの耐用期間ということになるでしょうが、初めから何年と想定している訳ではないのです。また、通常はアパートを売却することも想定していませんから、現金化のシナリオもありません。その経済行為の効果については、建設投資額に対する利益額の比率といった利回り計算はできますが、投資期間完了時の現金化を予定していないため、他の投資対象、たとえば、銀行預金や株式、債券などと比較検討することはできません。

それでは、(3)はどうでしょうか。投資用ワンルームという名称から見ても、これを購入する方は、当然、「不動産投資」と考えて購入されていると思います。しかしながら、投資期間については、きわめて曖昧なのではないでしょうか。たとえば、「30年間のローンを返せば、老後の年金代わりになる」といった目的で購入するケースでは、相当長い期間をお考えなのでしょう。また、計画的に売却することも、考えていないケースがほとんどでしょう。すなわち、現金化のシナリオがないのです。また、経済行為の効率性についても、投資額に対する利回りの概念はあるものの、アパートと同様、投資期間完了時の現金化を想定していないため、他の投資対象との比較は困難です。ただし、結果的に売却した場合には、事後的に経済行為の効率性を計ることはできます。

つまり、最初の質問の答えは、(1)~(3)のいずれも、「不動産投資」とは言えないということになります。もちろん、不動産投資と言えないからといって、こうした行為がダメなわけではありません。しかし、少なくとも、グローバルマーケットの中で、様々な投資対象と比較検討されるような「投資行為」とは異なる経済行為と考えられます。

実は、(1)~(3)は「Buy&Hold」と呼ばれる、購入してずっと持っているというタイプの経済行為なのです。わが国では、戦後一貫して続いた土地の値上がりにより、不動産については、こうしたBuy&Holdの考え方が主流になっていたのです。「土地活用」という考え方も、このBuy&Holdに近い考え方です。すなわち、「土地活用」とは、「相続した財産、とりわけ土地については、手放さずにずっと持っていることが大切だ。そのためには、土地を有効に活用して、土地の維持コストを稼ぐことが必要だ」という考え方なのです。

「土地神話」が健在な時代には、こうしたBuy&Holdの考え方や、「土地活用」の考え方が有効でした。しかし、その後の時代には、こうした考え方だけで、不動産を運用することには、大きなリスクがあると考えられます。

それは、第一に、不動産の所在する地域や立地によって、周辺地域全体の落ち込みにより、地価の継続的な下落や空室率の増加などが生じる可能性が高く、立地を選べないBuy&Holdや「土地活用」よりも、立地を選べる「不動産投資」の方が、成功する確率が高いからです。

第二に、「たまごを一つのカゴに盛るな」という格言の通り、不動産に偏った資産構成の方も、金融資産に偏った資産構成の方も、その主要な資産が暴落した場合には、取り返しの付かないような損失を被る危険性があるため、適宜、別の資産に組み替えられるような流動性を確保して、分散投資を心がけることが重要だからです。このことは、グローバルにマーケットが一つになった今日、特に重要な教訓です。

第三に、財産を持つ個人の生き方の問題です。「土地活用」により、先祖代々の土地を守っていくという生き方が、はたして、その土地を所有している個人にとって、幸せな生き方なのだろうかということです。むしろ、土地に縛られずに、その人の価値観にあった、無理のない資産運用により、人生を豊かにしていくことが大切なのではないでしょうか。その資産運用の分散投資の一つの対象として、実物の「不動産投資」があるわけです。

このように、時代は明らかに、「土地活用」から「不動産投資」へと移りつつあります。次回は、この不動産投資の基礎となる「レバレッジと利回りの考え方」について、解説いたします。

※本記事は2009年8月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。

株式会社アークブレイン

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