資産運用

資産としての「土地」と、その活用の変遷を振り返る

「不動産投資」という考え方に立脚して資産経営を見直す短期集中連載の第1回。まずは、ここ30年ほどの間に、資産としての「土地」の評価はどういう変遷をたどってきたのか。土地をめぐる考え方の歴史を振り返ります。

リーマンショック以降、混迷を深める日本経済。そのなかで、土地資産家がどのように、土地資産を生かし、資産経営をしていくと良いのか。将来を見通すことはなかなか困難な時代ですが、今回は、次回との2回にわたり、ここ30年余りの「土地」をめぐる様々な考え方の歴史を振り返り、将来へのヒントとしたいと思います。

多くの土地資産家にとって、「土地」は先祖代々受け継がれてきた特別なものであり、次の世代に引き継ぐべきもの、守るべきものという意識が強いと思います。確かに、戦後の経済成長を通じて、地価は継続して上昇し、土地を持っていることは、何にもまして価値がありました。いわゆる、「土地神話」の時代でした。

しかし、90年代に入ると、地価は一転して継続的な下落傾向を示し、この傾向は地価がようやく底打ちを見せ始めた2005年頃まで15年近く継続したわけです。しかも、昨年春頃から、地価は再度下落傾向を示し始め、昨年秋のリーマンショック以降の世界金融危機の影響もあり、大幅な地価下落が当面は継続する可能性が高くなっています。

こうした地価の動向は、基本的には、土地に対する需要と供給のバランスによって決まってきたものと考えられます。80年代以前の土地神話の時代には、継続的な経済成長に加え、都市部への人口集中が進み、人口そのものも増加傾向を辿っていましたから、土地に対するニーズは、経済活動を営む企業についても、マイホームを取得したい個人についても、ともに旺盛であり、特に供給が限られる都市部の地価は、経済成長率よりも高い上昇率を示していました。こうした時代には、土地を持つことは、将来の売却益(インカムゲイン)を約束されることと同義であり、それがさらなる土地需要を喚起したわけです。

これに対して90年代以降は、経済成長率の低下に加え、人口動向そのものも、現状維持から減少へと変化し、それに加え、土地の資産としての優位性を奪うための税制改正が行われたため、土地に対するニーズは大幅に減少しました。特に、企業部門では、工場等の生産設備の海外立地が進み、さらに、会計基準への時価会計への導入により値下がりの恐れのある土地資産の保有に慎重になったことも重なり、土地の処分を進める企業が多くなり、土地に対する需要は激減したのです。また、1991年の生産緑地法の改正により、市街化区域内農地の宅地化が進行し、供給面でも、地価が下落する要因となったわけです。

こうして、90年代以降、需給関係の構造的な変化により、地価が継続的に上昇する要素は失われ、「土地」は、特別な資産としての地位を失ったわけです。すなわち、土地を持っていても、将来の値上がり(キャピタルゲイン)は期待できないばかりか、固定資産税や相続税などの租税負担が増加しているため、経済的には、利用しない土地を持っていても何のメリットもない時代となったのです。

しかし、こうした地価下落傾向の時代においても、土地資産家にとっての主観的な土地の価値は、それほど大きくは変わらなかったと思われます。経済的な価値はともかくも、気持ちの上では、「土地」は、やはり先祖代々受け継がれてきた大切な資産であり続けたわけです。すなわち、90年代以降、「土地の経済的な価値」と、土地所有者にとっての「土地の主観的な価値」の間にギャップが生じ、しかも、そのギャップは年々拡大する傾向にあるのです。そして、この拡大するギャップの間に折り合いを付ける方法が、いわゆる「土地活用」と呼ばれる手法なのです。

「土地活用」という考え方は、1970年代半ば以降に広まった考え方です。「土地を遊ばせておくよりも活用した方がお得ですよ」という発想ですが、当時、地価の上昇により、公租公課や相続税の負担が大きくなり、土地活用、中でも、借入金で賃貸住宅を建てる事業により、土地に係わる税負担を軽減することが主要な目的となりました。特に、80年代後半には、相続税対策としての賃貸住宅の建設が急増し、一種のブームになっていました。そのブームも、バブルの崩壊とその後の不況により一気に冷め、相続対策として無理をして借入金で建てた賃貸住宅事業の多くが、90年代には行き詰まり、破綻した事業も少なくありませんでした。

こうした相続税対策を目的とした土地活用に替わり、90年代からの土地活用においては、より収益性と流動性を重視する傾向が強まりました。節税効果だけでなく、土地の保有コストを上回るだけの収益性をもたらす土地活用を考えたいということです。また、90年代の賃貸事業の破綻事例の反省から、無理な借入金を避け、いざというときに現金化しやすい事業を選びたいという流動性に対するニーズも強まりました。都市部の遊休地に急増した時間貸し駐車場ビジネスは、この収益性と流動性を兼ね備えた新たな土地活用メニューの代表例です。

一方、90年代後半以降、急速に広がりだしたのが、「不動産投資」という新しい考え方でした。この「不動産投資」の考え方が、これまでの「土地活用」とどこが同じでどこが異なるのかを知ることは、これからの資産経営を考える上できわめて重要なポイントのひとつですが、この続きは、次回のコラムで書きましょう。

※本記事は2009年7月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。

株式会社アークブレイン

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