前回は、不動産投資における借入金の限度額について、DSCRという指標を用いて算定することができるという話をしました。それでは、借入金の限度額を超える部分の投資資金はどう調達すれば良いのでしょうか。中には、その部分も「給与所得などの収入と別の担保物件を用意することにより借入金で賄えばよい」という勇ましい方もいらっしゃいますが、こうしたリスク承知の「フルローン信奉者」は別にすると、通常は、自己資金で賄うことになります。
この場合、自己資金をどう調達するのかという問題が生じます。潤沢な自己資金があれば良いのですが、そうでないケースも多いからです。こうした場合に、既に不動産を持っている方は、相当有利になります。このコラムでは、「土地活用から不動産投資へ」というテーマで連載をしていますが、土地をお持ちの方が、不動産投資を始めることは、そうでない方に比べ、ある意味では大変有利で容易なことであり、また、別の意味では大変困難なことと思われます。
有利で容易なことというのは、所有している不動産の中で、駐車場など収益性の低い土地や遊休地などを売却して、その資金で不動産投資に投じる自己資金を賄えば良いからです。貸宅地、すなわち借地権の底地なども、売却することができれば、不動産投資の自己資金に回すべき絶好の資産です。こうした不動産の収益性は、相続税評価額を基準にしても、表面利回りで1%にも満たないことが多く、不動産投資の利回りが表面で6%程度であっても、収益性ははるかに高まるからです。
一方、大変困難なことというのは、先祖代々の土地を所有している資産家、すなわち地主さんにとっては、所有している土地などの資産を売却することには、極めて大きな心理的抵抗があるからです。先祖代々の土地を手放すのは、相続税の納税など、特別な場合に限ると自ら決めている方が多いのです。こうしたメンタリティには理解できる面もありますが、自ら所有する土地を売ることもできず、満足な収益も上げずにひたすら保有し、毎年の公租公課を払い続け、亡くなった時に保有していた土地で相続税を納税するということは、土地の所有者というより、土地の番人に過ぎないのではないでしょうか。少なくとも、土地神話が途絶えた今日には、こうした土地保有の姿勢は、経済的には全くメリットのない行為と言えるでしょう。
しかし、いったん、土地を保有し続けるという呪縛から解き放たれた時、地主さんは、不動産投資家として、極めて有利なスタートラインに立つことができるのです。ここで、不動産投資の、土地活用に比べた場合のメリットを改めて整理しておくと、次の3点が挙げられます。
(1)立地を選べる
(2)収益性(キャッシュフロー)と共に流動性(いつでも売却できること)を確保できる
(3)土地に縛られずに、その人の価値観にあった無理のない運用により、人生を豊かにしていくことができる
これらの3点は不動産投資の中で実現できる要素ではありますが、それを実現できるかどうかは、投資家の考え方(投資哲学)や、知識や経験によります。しかしながら、土地を保有している地主さんが、土地保有の呪縛から解放された時には、保有している土地を売却することにより得られる自己資金という、きわめて強力な資源を持つことになるのです。
いったん、不動産投資家への道を志した場合には、躊躇してはいけません。上記の(1)~(3)のメリットを徹底的に追及するために、従来保有していた不動産を不動産投資家の目で客観的に見て、保有する価値のないものは、保有する価値のある収益用不動産に順次組み替えていくわけです。ある意味では、中途半端な土地活用を実施している地主さんよりも、駐車場や資材置き場など、ほとんど活用していない土地の多い地主さんの方が、売却しやすい資産が多いため、不動産投資家への道は容易なのかもしれません。
さて、こうした不動産投資家への道は、実際にはいつでも売却できる土地等の資産があれば相当有利には違いありませんが、それだけでは不十分なことも多いと思います。例えば、不動産投資の対象となる案件を選ぶ確かな目、不動産マーケットや不動産取引の実務上の知識と経験、投資後の不動産の管理運営に関する実務上の知識と経験、銀行借入等の実務知識や交渉力、テナントの募集・選定・契約に関する実務上の知識や経験、投資案件の売却時の実務知識や経験、そして不動産投資に対する確たる方針など、多様な知識やノウハウ、哲学が必要とされます。こうしたものを単独で身につけることは大変困難なことであり、また時間を要することでもあります。自らの努力・勉強に加え、何かに付け相談できる専門家を、自らの知恵袋として身近に用意することが、不動産投資家として成功するための早道と考えられます。
※本記事は2009年11月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。
株式会社アークブレイン
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