低金利時代の資金運用を考えるにあたって、昨今の銀行の定期預金や国債などの金融資産では、1%の利回りを期待することすら困難な状況であること、しかしながら土地オーナーにとっては、ある程度の安全性と収益性を確保することができる、自己資金を投入した土地活用のメリットについて前回ご紹介しました。今回は資金運用として土地活用を捉えた場合、具体的にどのようなメリットや留意点があるのか、事例を使いながら具体的に見てみましょう。
土地活用に現金を投入した場合の運用利回りを事例で計算すると
例えば、自己所有地に全額自己資金(現金)でアパートを建て、賃貸経営を始めるケースを想定してみます。
建築工事費が延べ面積当たり80万円(消費税込)の木造賃貸アパート(延べ面積100坪)を建設するとして、専有面積9坪の部屋が10室あり、1室あたり9万円で賃貸できると想定します。この賃貸事業の総事業費を、消費税込の建築工事費の1.15倍と仮定すると、総事業費は、9,200万円、空室率を10%と想定すると、年間の家賃収入は、972万円となります。
この賃貸事業の経費(公租公課や保険料、管理委託費、修繕維持費などの営業費用)の賃料収入に対する比率を20%と仮定すると、賃貸事業の純収入は、777.6万円で、この純収入の総事業費に対する利回りは、8.45%と計算されます。(別表参照)
この利回りは、全額現金での投資の場合には、キャッシュフローベースでの税引前利回りとなるので、現金9,200万円を税引き前8.45%で運用したことになります。
金融資産での運用利回りが1%にも満たない昨今の金融情勢の中で、現金での土地活用が相対的に高い運用利回りを確保できる手段であることがおわかりだと思います。
また、こうした現金での建物投資は、建物を新築する場合の投資額よりも、既存建物の競争力を上げるためにリフォーム投資の方が、建築工事費単価が安いために利回りが高くなる傾向にあります。
なお、相続税については、実は自己資金による投資でも借入金による投資でも、相続税の節税効果に変わりはありません。自己資金を投入することで、ご所有の現金が減少することにになりますので、相続税評価額が下がることにつながるのです。建物への現金による投資でも、相続税の節税効果が得られることは覚えておいて損はないでしょう。
低金利時代でも利回りが確保できる資金運用方法とは?
このように、土地活用として現金で賃貸用建物を建設した場合の利回りは、金融資産での運用に比べてはるかに高い利回りを期待でき、相続税の節税効果も期待できるのですが、その一方で、注意すべき点があります。第一に、建物は時間の経過とともに価値を減らしていくので、銀行預金のように、そのまま元本が戻ってくるわけではありません。賃貸用建物としての運用期間の間に、その価値を償却してしまうということです。したがって、現金での賃貸用建物への投資では、何年で投資額が回収できるかという「投資回収期間」が重要な意味を持つことになります。前述の事例では、100%÷8.45%/年=11.83年と計算され、12年弱で投資が回収できる計算になることがわかります。
また、建物への投資は、金融資産での運用に比べると、換金性に乏しいというデメリットがあります。したがって、近い将来に現金での多額の支出が想定されるような場合には、むしろ、借入金での投資が望ましいケースもあります。
こうしたデメリットはあるものの、低金利下での現金の運用手段としては、土地活用での賃貸用建物への現金での投資は魅力ある運用手段のひとつと考えられます。もしある程度の現金をお持ちの場合には、その運用手段として、自己所有地に現金で賃貸用建物を建てるという運用方法を、ぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。
※本記事は2017年6月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。
株式会社アークブレイン
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