低金利時代の資金運用は難しい
昨今、長期金利の低下は著しく、土地オーナーが所有地にアパートなどの賃貸住宅を建てる際のアパートローンなどの返済条件についても、以前よりは格段に有利な条件で借りられることが多いようです。
しかし、金利の水準などは、グローバル経済の動向によって、大きく変動する可能性があり、将来にわたって、現在の低金利が継続するとは言い切れないのが現実です。低金利の借入金で建てたアパート経営で、将来、金利水準の上昇によって、借入金の返済に苦労する可能性も否定できないのです。
その一方で、現金をお持ちの方が資金運用を考える場合、現在の低金利は、あまり有利な運用環境とは言えません。1990年ごろのバブルの時期には、郵便貯金に預けるだけでも8%近くも利回りが取れたのに比べると、昨今の低金利下では、銀行の定期預金や国債などの安全確実な金融商品では、1%の利回りを確保することも困難な状況です。
図1は、国債の応募者利回りの推移を示したものですが、黒田日銀総裁がマイナス金利政策を導入した2016年には、5年債や10年債の応募者利回りはマイナスになっています。
それでは、株式投資や投資信託はどうかといえば、確かにうまくいけば高い利回りを確保できるかもしれませんが、その反対に大きな損失を抱えるリスクもあるわけで、誰にでも手を出せる資金運用手段とは言い難いようです。
低金利時代でも利回りが確保できる資金運用方法とは?
それでは、この低金利時代に、ある程度、安全確実に、かつ、ある程度の利回りを確保できる資金運用の手段はないのでしょうか?
実は、金融資産だけでの運用では難しいかもしれませんが、土地オーナーにとっては、土地活用に現金を投入するという方法が考えられます。すなわち、お持ちの土地に現金でアパートや賃貸マンションを建てるという方法です。
ところで、土地オーナーの方にとっては、土地活用というと、借金によってアパートなどの賃貸住宅を建てるというイメージが強いようです。この理由としては、借入金を利用すれば、手元に現金がない場合にも土地活用ができますし、土地・建物を担保にすれば、他の事業よりもはるかに楽に借入金での資金調達ができるためと考えられます。また、借入金の金利は、不動産所得上の経費に算入できますし、昨今の低金利下では、金利負担自体が比較的小さくなっているというメリットもあります。さらに、相続が発生した時には、借入金の残高がマイナスの資産として計上できるという節税効果も期待できるのです。
しかし一方で、借入金は賃貸事業の収益の中で長年にわたり着実に返済していく必要があります。特に変動金利で借りていると、経済環境の変化により、金利の急激な上昇や、空室率の増加、家賃水準の低下などにより、借入金の返済に支障が生じるリスクがないわけではありません。
こうした賃貸事業のリスクを考慮したときに、全額借入金で土地活用をおこなうのではなく、ある程度の手持ちの現金を、自己資金として土地活用に投入することは、賃貸事業全体のリスクを低減し、事業の安定性を増す上で有力な手段になります。
また、こうした土地活用に手持ちの現金を投入することを、現金の資金運用という観点でみると、これは、昨今の低金利下においても、ある程度の安全確実性と比較的高い利回りを同時に確保できる「資金運用の手段」と捉えることができるのではないでしょうか。
次回は資産運用として土地活用を捉えた場合のメリットと留意点について、具体的な事例を用いてご紹介したいと思います。
※本記事は2017年1月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。
株式会社アークブレイン
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