土地資産家のための税務講座

“家なき子節税”濫用は通じない。小規模宅地等の特例を正しく理解する

平成30年度税制改正に伴い「小規模宅地等の特例」も一部改正されました。本来、被相続人と同じ生計基盤を持つ相続人の生活を守ること、また事業承継を円滑にすることなどが制度の趣旨でしたが、制度を濫用するケースも目立ったことで、厳格化の対応が取られたといえます。大きなメリットのある制度だからこそ、要件が複雑なものにならざるを得ません。そこで今回はこの特例の基本的な考え方と改正点等を、居住用宅地に的を絞って検証してみましょう。

居住用宅地に対して適用する場合の要件

居住用宅地についてこの特例を適用する場合、面積にして330m²までが原則的な評価額の80%引き、つまりわずか20%相当の評価となります。相続税の申告が必要な方には、ご自宅の土地・建物を所有されている方が多いこともありますが、数の上ではこの特例の中でご自宅敷地について適用されるケースが最も多いようです(図1)。

この居住用宅地についての特例ですが、被相続人が不動産貸付業以外の事業を営んでいる場合に適用される特例とは併用が可能です。これを特定事業用宅地と言うのですが、被相続人が営業していた事業用の店舗や事務所、工場等の敷地との併用です。これは面積が400m²まで80%引きとなるため、最大で両特例を適用することにより合計で730m²までが特例の恩典を受けられることになります。

小規模宅地等の評価減の特例のうち、もうひとつの貸付事業用宅地ですが、面積としては200m²までが50%引きの評価となっています。居住用の特例と併用は可能ですが、居住用の限度である330m²までの面積を使い切らず、余剰の面積がある場合に限ります。ただし、居住用の敷地面積が250m²であれば、単純に330m²までの差額の80m²が適用対象となるわけではありません。居住用部分を一種貸付用と算式上見なして、合計で200m²となるまでの面積がその対象です。

その具体的な算式を図2に示しています。この算式から貸付事業用宅地の面積の最大値が求められる仕組みです。

さて、居住用宅地については、大きくは①宅地についての要件と、②それを相続する側の相続人の要件の2つの要件から成り立っています。①については、被相続人が所有していた土地のうち(a)被相続人の居住用宅地、または(b)被相続人と生計を一にする親族(いわゆるお財布が同じ親族)の居住用宅地がその条件です。これはわかりやすい要件なのですが、問題はもうひとつの相続人の要件です。誰が相続すれば適用を受けられるのかということですが、㋐配偶者㋑被相続人と同居の親族、そして次が結構難題なのですが、㋒前述㋐も㋑もいない場合に限って、いわゆる“家なき子”がその対象となります(図3)。“家なき子”とは、一言で言えば借家等住まいで持ち家に住んでいない親族のこと。それも親族本人のみならず、その配偶者を含んで相続の開始前3年以内に持ち家に住んでいないことが条件となっていました。

敢えて“家なき子”にする工夫

ご夫婦単位で考えた場合、一般的にはご主人が先に亡くなることが多いのではないでしょうか。ご夫妻の最初の相続を一次相続と言いますが、その場合には配偶者がご自宅敷地を相続すれば特例が適用できます。同居の親族がいれば、二次相続を考えてその方が相続すれば、一回飛ばしの相続でこの特例を適用できることにもなります。

問題は配偶者も同居の親族もいない場合です。一次相続の時は配偶者への相続で何とか適用ができたとしても、二次相続にあたっては、同居の親族がいなければ、㋒の家なき子に該当させるしかありません。もちろん文字通り家なき子であれば問題はないのですが、その相続人がすでに持ち家に住んでいれば、特例の適用ができないのです。

そこで、そのような場合には苦し紛れに色々なことを考えて実行する方が多かったのです。例えば、法人を設立し建物だけをその法人に売却してしまうのです。そして相続人が賃借人として法人に家賃を支払っていれば、外見上は従来と同じ住まいに従前のとおり住み続けることも可能です。そうすると、仮に土地はそのまま保有していても、規定上は“持家”に住んでいなければよいので、家なき子として特例を受けられることになるからです。

またこんな例もあります。そもそも建物の相続税法上の評価額は、固定資産税の評価額をもとに計算することになっています。この固定資産税評価額は、建築価格に比較してかなり低額です。個々の建物により若干の相違はありますが、概ね建築価格に対し鉄骨鉄筋系で60%程度、木造に至っては35%程度と言っても良いでしょう。そこで、その相続人の子、つまり被相続人から見ると孫に対して建物だけの贈与をおこなっても、相応の贈与税で贈与ができる場合も多いのです。このような贈与によって、その相続人は実際の相続時には“家なき子”になれるという仕組みです。

ただし、分譲マンションの場合には、土地と建物とを別々に登記をすることができません。不動産用語で敷地権に基づく区分所有登記と言うのですが、常に土地と建物は一体で別々の登記はできないのです。従って建物だけを取り出して売却や贈与ができず、この手法で家なき子になるのには、負担額が大きいという事情はあります。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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