資産経営に差がつく、骨太“法務”塾

父親の相続と母親の相続は、法的にはまったく別物と考える

〈今回のテーマ〉二次相続を“争族”に発展させないために

父の相続の際は、母と長男が財産の大部分を取得し、長女の私と次男、三男は遺産をほとんど受け取りませんでした。そのため、今回の母の相続では長男は私たち兄弟に遠慮するものと考えていましたが、長男は母の相続でも法定相続分を要求し、さらに母を介護した寄与分まで主張しています。遺言がない場合、両親の財産は子どもたちに平等に分割されるべきだと思いますが、長男の要求を拒否することは法的に認められるのでしょうか。

二次相続の注意点「父の相続と母の相続は別物」

残念ながら、長男の要求を拒否することは法的には認められません。なぜ認められないのか、「両親の財産は子どもたちに平等に分割されるべき」というご質問者の希望を叶えるには何をすべきだったのかを以下に解説します。

遺産の承継に関して、民法は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」(民法第898条)とし、さらに「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する」(同第899条)と定めています。
父親が死亡した場合、遺言がなければ父親の財産は共同相続人が各自の法定相続分の割合で所有する共有財産となり、遺産分割手続でその共有財産を分割することになります。遺産分割は法定相続分通りに行う必要はなく、相続人全員が遺産分割に納得して押印すれば、特定の相続人が遺産のほとんどを取得することも認められています。

ご質問のように、父親の相続の際に母親と長男が遺産の大部分を相続し、その後母親の相続が発生した場合、長男は父親から多くの財産を取得したことを考慮して母親の遺産分割に臨む必要があるのでしょうか。結論として、父親の相続の際の遺産分割がどのような内容であっても、母親の相続に法的な影響は及びません。つまり、法的には父親の相続と母親の相続は別物と考えられるため、父親の相続の際に長男が遺産を多く取得し、長女、次男、三男は財産をほとんど受け取らなかったとしても、父親の相続はそこで完結し、母親の相続の際には考慮されないということです。そのため、長男は法定相続分を要求でき、寄与分があればそれも主張することができます。

そして、父親の相続で特定の相続人が遺産の多くを取得したにもかかわらず、母親の相続の際にもその相続人が法定相続分や寄与分を要求したために“争族”に発展するというのは、二次相続でよくみられる事例です。

両親の財産を平等に分けたい場合は「遺言」が必須

では、二次相続で“争族”に陥ることなく、また「両親の財産は子どもたちに平等に分割されるべき」というご質問者の希望を叶えるにはどうすればよかったのでしょう。

まず思いつくのは、父親の遺産分割協議で長男が多くの財産を取得すると決めた際に、将来の母親の相続では長男は遺産を要求せず、長女、次男、三男の3人で遺産分割をすることを関係者間であらかじめ合意しておくことでしょう。しかし、このような家族内での話し合いは重要ではあるものの、法的には被相続人(母親)の生前における遺産分割の合意は、無効とされてしまいます。

一方、二次相続の被相続人である母親が長女や次男、三男に多くの遺産を取得させる旨の遺言を作成しておけば、法的な効力が生じます。しかし、その場合でも遺言が長男の遺留分や寄与分を侵害していた場合、長男はその分の請求を行うことが可能です。そのため、一次相続・二次相続でどのように遺産を分割すれば問題が起こらないかなど、一次相続の段階で二次相続を見据えた計画を立て、それに基づいた遺言を作成しておく必要があるでしょう。

両親の相続といっても、父親の相続と母親の相続は法的にはまったくの別物である――。このことをしっかり理解し、円満な二次相続を目指していただきたいと思います。

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