土地資産家のための税務講座

賃貸用不動産、空室の分だけ相続税が大幅アップ!?

更地のままでは収益を生まず相続税も大きくなるからと、節税対策として賃貸マンションを建てたのに、相続時点で空室があると、その分だけ更地同等の扱いになり、建物の相続税評価額も大幅にアップ!?……その通りなんです。概要と、回避策についてご説明します。

賃貸マンションを建てると、土地の評価はどうなる?

土地を更地のままにしておくと、相続税の評価は非常に高いことはご存じの方も多いでしょう。原則的には路線価に面積を乗じた価額になります。実際には間口や奥行、土地の形状等に応じて、若干の補正をおこなうので、それ程単純ではありません。しかし、基本的には路線価×面積と考えてよいでしょう。

ハウスメーカーは、それを考えて賃貸物件を建てましょうと営業をしてくるのです。相続税対策になりますよ、と。それは確かに真実なのですが、どれ位評価が下がるのかを、まずは検証しておきましょう。

貸家建付地の評価額の算出方法については図1のとおり、更地としての評価額から一定割合で評価額が減額されることになります。

ここで借地権割合は場所ごとに決められていて、東京近郊で考えると住宅地で50~70%程度、商業地で60~80%程度が多いでしょうか。今は国税庁のホームページで簡単に確認ができますので、ぜひ一度ご自身の土地の路線価を確認しておくとよいでしょう。また、借家権割合は全国一律に30%となっています。従って、更地の評価額が1億円の土地で借地権割合が60%の地域だと図1の例のようになります。同様に借地権割合が70%なら7,900万円、80%なら7,600万円という具合です。

このように、貸家が建っている土地を“貸家建付地”と言いますが、更地の状態より大幅に評価額は減少します。これは、借家人に借家権が生じオーナーが100%自由に使用することができず、利用が制限されるためだと説明されています。

建物の評価も下がるのか?

一方、建物に対する評価の影響は土地の比ではありません。まず、相続税では建物の評価について、税務署独自の評価はおこないません。税務署が一つひとつの建物を評価することが、実務的に不可能だからです。そこで、基本的には建物の固定資産税評価額を用いることになっています。この固定資産税評価額ですが、建物の用途や構造によって異なります。建物を新築すると、必ず固定資産税の課税担当者が実際に検査にやって来ます。そして、内外部の構造を設計図や請負契約書と見比べながら、詳しく検討していくのです。そのうえで建物ごとに評価額を算定するのですが、一般的には木造系で実際の建築価額の35%程度、鉄骨鉄筋系で60%程度でしょうか。

それぞれの建物にもよりますが、いずれにせよ実際の建築価額よりかなり低い評価額になることは間違いありません。しかも、建物を賃貸した場合には、実際の建築価額より低く算定された固定資産税評価額からさらに70%の評価になるという仕組みです。仮に建築価額1億円の建物が60%で評価されるとすると、1億円×60%×(1-30%)で相続税評価額は4,200万円になるという計算です。ここで30%を減じるのは、前項でご説明したように、借家権を30%と考えているためです。自家用ではなく賃貸で借家人が入居することによる、オーナーの利用が制限されることを考慮しているためなのです。

この様に、土地についても建物についても、賃貸建物を建築することにより、相続においては他人の占有という事象をとらえて、評価額は相応に減少することになっています。その意味で、ハウスメーカーが相続税対策になります、という営業トークは決して嘘ではないのです。

問題は相続時に空室がある場合

確かに賃貸建物の建築は評価のうえでは有利になるのですが、それはあくまでも全室賃借人が埋まっている満室状態での話です。

話を単純化するために、同じ面積、同じ間取りの部屋が10室ある賃貸マンションを例に考えてみましょう。相続税における評価は、各財産の相続時における“時価”でおこなうことになっています。ただ、時価と言われてもその判断が難しいので、実務では国税庁が『財産評価基本通達』で細かな指針を定めているのです。土地は路線価、建物は固定資産税評価を基に評価することも、実はこの通達というルールブックに従った指針によるものなのです。

さて、話は10室の賃貸マンションに戻ります。相続時に10室の内3室が空室の場合、この3室に相当する土地も建物もオーナーは自由に使うことができる状態です。実際に借家人が入居していないためです。従って、今まで説明してきたような、オーナーの利用が制限されるための貸家建付地の評価や、借家権を考慮した控除はおこなう必要がありません。つまり、土地は更地で、建物は固定資産税評価額そのもので評価をおこなうことになるわけです。

しかし、極端な話、相続が起こる前日に3室同時に空室になった場合はどうでしょう。前日までなら評価減が適用できたのに、わずか1日違いで全くその減額がおこなわれないとなると、理屈はともかくとして心情的には何となく納得がいきません。そこで、国税庁はその取扱いについて、次のような公式見解を明らかにしています。

①各独立部分が課税時期(相続時)前に継続的に賃貸されてきたものであること
②賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行なわれ、空室の期間中、他の用途に供されていないこと
③賃貸されていない時期が、課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど一時的な期間であること
④課税時期後の賃貸が一時的なものではないこと 等々です。
 

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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