土地資産家のための税務講座

相続財産を換金して納税資金に充てたい。売却のタイミングはいつ?

相続財産の中で最も多いのは、何といっても不動産です。現預金だけであれば、少なくとも納税の心配はありませんが、現実には相続した不動産を売却して納税資金にあてるケースが少なくありません。そこで今回は、納税方法も視野に入れた上で、誰が不動産を相続し、いつ売却するのが得なのか、損をしないためにどうしたらいいのか、一緒に考えてみましょう。

記事作成日:2016年1月16日
記事改定日:2023年8月3日

Q3 ご相談者 C様

納税がない場合でも、取得費加算の特例は適用される?

父の相続に関し、自宅と隣地のアパートは母が、現預金と有価証券は私が相続しました。相続から2年が経過し、母は一人暮らしの寂しさと体調不良から、自宅を処分して、私達家族と同居することになりました。

なお、母は相続時に、自宅に係る小規模宅地等の特例と、配偶者の特例である税額軽減措置で納税の負担はありません。このような場合でも、自宅処分にあたっては取得費加算の特例は適用できるでしょうか。

Answer

お母様は実際の納税額が算出されていませんので、
取得費加算の特例は適用できません。

〈解説〉

Q1の答えで述べたとおり、取得費加算の特例はその相続人の相続税額のうち、その一部を売却資産の取得費に加算するものです。売却する財産がご自宅であっても、申告期限後3年以内であれば、その適用対象とはなります。

しかし、お母様は配偶者の税額軽減の特例等で、そもそも納付すべき相続税額がありません。従って、現実には加算すべき金額が算出されないため、適用がないことになってしまいます。当初から売却が予定されている財産がある場合、その財産は取得費加算の適用ができるよう、相続税額が算出される相続人に相続してもらうべきでしょう。

また、財産や相続人の構成、価額、配偶者の固有の財産の有無等によっても異なりますので、これから述べる事柄はあくまでも一般論であることを前提にお考えください。ご質問者の方のように配偶者がご自宅を相続して、それに対し小規模宅地等の評価減の特例を受ける場合、二次相続のことも考えておくべきだということです。この特例を適用すると、ご自宅の場合330m²までの敷地は80%引きの評価となります。つまり、本来1億円の土地が2,000万円で評価されるのです。

確かに、当初の一次相続では2,000万円で評価された財産ではありますが、実際には1億円の価値のある財産を次回(二次相続)に持ち越すことになるわけです。二次相続時にもこの特例が適用できれば問題はありませんが、相続人の要件、同居親族の要件等を満たさない場合も想定されます。そもそも、この小規模宅地等の特例は頻繁に改正がおこなわれてきた経緯があるのです。含み益を持った財産を、はたして時間的には短期間に二次相続が想定される配偶者が、相続するべきか否かは全体の財産を考えて決定すべきでしょう。

なお、取得費加算の特例は、その対象は何も不動産に限りません。相続税の計算に算入された財産で譲渡所得を生じるものであれば、財産の種類は問わないのです。従って、質問者の方が相続した有価証券やその他のゴルフ会員権、金、美術・工芸品等もその対象となります。“売却するなら、申告期限後3年以内!”は覚えておいて損のない特例です。

基本的には相続開始前の売却は、特別な事情による必要性がないのであれば、じっくり考えてからの方が良い場合が多いでしょう。

※本記事は2016年1月号に掲載されたもので、2023年8月3日に一部改訂を行っています。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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