Q2 ご相談者 B様
不動産の売却は生前と相続後でどんな違いがあり、どちらが有利なのか?
相続税の納税資金として、将来は不動産の売却を考えています。生前の売却も考えた方がいいのでしょうか。
現時点で具体的な計画はありませんが、老朽化した建物の建て替えや、資産の組み換え、さらには相続までの時間との関係やそれらが相続税に及ぼす影響も教えてください。
Answer
納税資金という観点だけで見れば、
生前に売却することは基本的には得策ではありません。
〈解説〉
“相続税の納税”という観点で考えた場合、生前の売却が有利になることはほとんどありません。その理由は、第一にメリットは減少したものの、前問の取得費加算の特例があげられるでしょう。第二にすでに所得税・相続税対策として不動産の所有型法人や管理型法人、本来の事業法人をお持ちの方であれば、格好の法人活用策があります。相続が開始された後に、納税資金を確保するために、これらの法人に相続財産である不動産を売却するのです。
もちろん、この場合でも取得費加算の特例は適用できますが、それはともかくとして、本来銀行から相続税の納税資金を借り入れても、その借入利息は収入と対応していないため、何らの経費とすることはできません。しかし、このケースは法人の不動産購入資金のための借り入れです。従って、これに係る利息は法人の経費。相続人はこの売却代金によって相続税を納税できるため、結果として相続税の負担を法人に負わせることが可能になるわけです。仮に購入不動産単体で採算が取れなくても、法人全体で不採算でなければいいでしょう。
第三に財産の評価額の問題があります。売却をしなければ、相続財産は不動産です。土地は市街地であれば路線価、建物は固定資産税の評価額をもとに算出されます。場所によっても差はありますが、路線価で評価されること自体、実際の売買価格に比して不利になることは少ないと思われます。
また、建物の固定資産税評価額自体、実際の建築価額に比べかなり低い金額で評価されています。賃貸物件ならさらに借家権割合30%も減額されるため、かなり有利な扱いです。
それに対し、生前に売却してしまうと、相続財産は譲渡税を納税後の現預金となります。もちろん、この時点での取得費加算の特例は適用できません。残った現預金の評価はそのものズバリの金額。不動産のように実際の売買価額との評価差額を享受することはできません。
どうしても売却する場合には、売り急ぎは得策ではありません。相続後にすぐに売却できない場合には、一時的に延納や銀行等からの借り入れで納税をし、じっくりと構えることも一法です。さらに事前に物納の準備をし、売却と物納の双方で対応できるようにしておくことも必要でしょう。
いずれにせよ、納税資金を考えるなら、事前の対策が必要なことは間違いありません。
ただし、もともと収益性が低かったり、使い勝手が良くない不動産であれば、事前に資産の組み換えを考えることは有用でしょう。
税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。
税理士法人ATO財産相談室
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