土地資産家のための税務講座

住宅資金贈与の要件と相続時精算課税制度

両親、祖父母から住宅購入資金としての贈与があった場合、「住宅取得等資金の非課税制度」という贈与税の特例が適用でき、また、相続時に精算することを前提に生前贈与をしやすくする「相続時精算課税制度」も併用可能です。これらにより、贈与税の非課税枠が拡大するため相続対策としても有効な場合がありますが、適用時期や方法には注意が必要です。今回は、これら特例の概要と贈与をおこなう際の注意点をQ&A形式で確認していきましょう。

Q1 ご相談者 A様

住宅取得等資金の贈与税の特例の概要は?

私は現在、夫の会社の社宅扱いの賃貸マンションに住んでいますが、そろそろマンションを購入しようと考えています。夫の実家ではマンション購入に際して、援助をしてくれるようなのですが、その場合、贈与税の特例があると聞きました。制度の内容と、どのような住宅に適用できるのかを教えてください。

Answer

消費税率10%が適用された場合、父母または祖父母などからの贈与で、適用時期により最大3,000万円までの贈与が非課税になります。

〈解説〉

父母、祖父母または養父母などいわゆる直系尊属からの贈与によって、子や孫が住宅用家屋の新築、取得、増改築等をおこなった場合、贈与税の特例が用意されています。

一定の条件はありますが、平成27年中に建物取得等の契約をした場合、省エネ・耐震性を備えた良質住宅で1,500万円、それ以外は1,000万円までが非課税となります。

“住宅取得等資金の贈与税の特例”と一般的には言われていますが、非課税とされる金額が表1のとおり、住宅用の家屋の建築や取得等の契約の締結をいつするのかにより異なっていますので注意が必要です。

表1で平成28年10月1日からの契約締結分が括弧で並記されているのは、平成29年4月から消費税率が10%に引き上げられる見込みとなっていることによるものです。注文住宅の場合、請負契約を平成28年9月30日までに締結すれば、引き渡しの時期が引き上げ後でも8%の税率が適用されます。そのため、平成28年9月までは駆け込み需要が発生すると考えられ、1月から9月までは非課税枠を縮小することで需要を抑えようとしているのです。

なお、消費税率が10%の場合、平成28年10月1日から平成29年9月30日までの契約であれば、最高3,000万円が非課税となります。逆に、消費税率が8%のままの場合には非課税額は低く設定されています。

このように、契約の締結時期で非課税になる金額が異なるのですが、注意すべきは贈与税の申告の時期なのです。贈与税の申告は、実際の贈与がいつおこなわれたのかによるのです。そのため、非課税となる金額を判定すべき契約の締結時期と、申告の時期は必ずしも一致しないということなのです。

例えば、平成28年9月に契約を締結し、翌29年1月に資金の贈与をしてもらった場合を考えてみましょう。この場合には、平成28年9月時点の非課税限度額が適用されることになります。そして、贈与税の申告は、あくまでも実際の贈与を受けた平成29年分としておこなうことになるわけです。

さて、対象となる建物ですが、新築でも中古でも適用はありますが、面積が50m²以上240m²以下とされています。そして、床面積の2分の1以上がもっぱら居住用であることが条件です。また、中古の場合は原則として取得の日から20年(耐火建築物は25年)以内に建築された建物であることも必要です。

なお、この特例は住宅、つまり建物に係る特例で、資金を取得した日の属する年の翌年3月15日までに建物の取得・増改築にあてたうえで、実際に居住を開始することが必要です。

【表1】「住宅取得等資金の贈与税の特例」の非課税限度額
(  )内は消費税率10%が適用された場合
住宅用の家屋の
新築等に係る契約の締結日
省エネ等住宅 左記以外の住宅
平成27年1月1日から
平成27年12月31日まで
1,500万円 1,000万円
平成28年1月1日から
平成28年9月30日まで
1,200万円 700万円
平成28年10月1日から
平成29年9月30日まで
1,200万円 (3,000万円) 700万円 (2,500万円)
平成29年10月1日から
平成30年9月30日まで
1,000万円 (1,500万円) 500万円 (1,000万円)
平成30年10月1日から
平成31年6月30日まで
800万円 (1,200万円) 300万円 (700万円)

ただし、それと同時に土地を取得する場合にも適用がありますので、戸建住宅やマンションにも適用できることになっています。
また、表1の中で“省エネ等住宅”とあるのは、①エネルギーの使用の合理化に著しく役立つ家屋、②大規模な地震に対しても安全な家屋、③高齢者等が自立した生活をするために必要な構造や基準を満たした家屋を言います。

具体的には、①断熱等性能等級4もしくは一次エネルギー消費量等級4以上相当であること、②耐震等級2以上もしくは免震建築物であること、③高齢者等配慮対策等級3以上であること等となっています。

この特例、年分ごとに贈与額を計算する通常の贈与(暦年贈与と言う)にも、2,500万円までは非課税となる相続時精算課税制度による贈与にも適用できることになっています。従って、例えば非課税額が最大になる平成28年10月~29年9月の契約締結で消費税率10%が適用されるものであれば、基礎控除額と合わせて、暦年贈与で3,110万円、相続時精算課税制度で5,500万円までが非課税で贈与できる仕組みです。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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