土地資産家のための税務講座

住宅資金贈与の要件と相続時精算課税制度

様々な贈与税の特例が打ち出されている昨今です。その贈与税の特例のひとつに、住宅資金贈与があります。この特例、住宅用の家屋の建築や取得等の契約の締結をいつするのか、そして、消費税の税率は引き上げ後の10%なのかにより、非課税の金額が異なるため、適用時期や方法には注意が必要です。また、贈与税の特例の中でも“相続時精算課税制度”は特別な存在です。一度選択すると途中でやめることができないからです。以下、これらの贈与をおこなう際の注意点をQ&A形式で確認していきましょう。

Q2 ご相談者 B様

相続時精算課税制度と住宅取得等資金の贈与税の特例との併用で多額の贈与をすることは相続税対策になるか?

父の相続に際し、配偶者である母には相続税が課税されない限度額ということで、財産の半分を母が相続しました。相続人は母と私、妹の3人ですが、自宅の土地建物と預金の大半が母の相続財産となりました。

このたび私が母と同居することになり、二世帯住宅を計画しています。将来の母の相続を考えて、母の相続した預貯金を利用するつもりです。相続時精算課税制度による2,500万円の贈与と、住宅取得等資金の贈与税の特例で建物を私名義で建築することは、はたして母の相続税対策として有効なのでしょうか。

Answer

相続時精算課税制度は、基本的には相続税対策としておこなうものではありません。お母様の預貯金を利用して、お母様名義の建物を建築するのも一法です。

〈解説〉

まず、相続時精算課税制度ですが、父と長男、母と次男というように誰と誰の間でおこなう贈与なのかを決める必要があります。贈与する側が60歳以上で、受ける側は20歳以上の子や孫等の将来の相続人となる親族であることが条件です。そのうえで2,500万円までの贈与は非課税となりますが、贈与の回数や都度ごとの金額、対象物等に制限はありません。

ただし、2,500万円を超える部分については、一律20%の贈与税が課税されます。また、この制度で贈与をおこなっても、相続時には改めて贈与をした時点での価額で相続財産として課税されてしまいます。すでに納めた贈与税がある場合には、その贈与税は相続税から控除される仕組みです。そのため、基本的には損も得もなく、相続税対策になるものではありません。

従って、現在ご検討中の二世帯住宅を、この制度を利用してお母様から資金を贈与してもらっても、その資金そのものが相続時には相続財産として課税されることになってしまいます。

また、この制度で注意すべきは、一度この方法を選択すると、二度と通常の暦年贈与には戻れないことです。

このようなことを考えると、むしろ、お母様の資金を利用してお母様名義で二世帯住宅を建築し、その後に“建物”を通常の暦年贈与で贈与をなさったらいかがでしょうか。建物の相続税・贈与税の評価は固定資産税の評価額で計算されます。その固定資産税の評価額ですが、実際の建築価額に比して、木造で30~40%、鉄骨鉄筋コンクリート造で60~70%程度で評価されていることが多く、非常に有利だからです。

なお、相続税の大きな特例である小規模宅地等の評価減の特例を、誰がどこの場所で適用を受けるかを考えておくことは重要です。お母様の相続について、ご自宅敷地にこの特例を適用するためには、同居の親族であるご相談者B様が相続をする必要があります。B様のケースでは、二世帯住宅の建物がすべてお母様名義でも、B様との共有でも、B様が相続することで、限度面積まではご自宅敷地すべてについて、特例の適用が受けられます。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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