土地資産家のための税務講座

小規模宅地等の評価減の特例

相続税において非常に重要な影響を及ぼすもののひとつに、小規模宅地等の評価減の特例があります。面積や適用に制限はありますが、ご自宅や事業所の敷地なら80%、賃貸マンションやアパートの敷地なら50%を本来の評価額から減額できる大きな特例です。

中でも最も身近で、また適用されるケースが多いのはご自宅敷地でしょう。幾多の改正が繰り返され、とりわけ二世帯住宅については、非常にわかりづらい内容になっていますので、Q&Aの形でその内容を整理してみましょう。

Q1 ご相談者 A様

区分所有登記をした二世帯住宅の特例の適用対象は?

私には妻と子供が1人おり、両親とはいわゆる完全独立型の二世帯住宅に居住しています。1階が両親、2階は私たち親子の世帯となっていて、内部での行き来はできません。面積は上下階で概ね同じなため、建築資金も父と私が半分ずつ出し合いました。1階を父、2階を私の名義にしていて、登記簿上は所有場所が特定できる区分所有登記となっています。敷地はすべて父名義ですが、父が亡くなった場合、小規模宅地等の評価減の特例は父の建物持ち分、つまり2分の1だけが適用となるのでしょうか。

Answer

現状のままでは父上の持ち分相当だけが対象です。区分所有登記を共有登記に!

〈解説〉

A様のお住まいは、1階と2階が内部でつながっておらず、自由な行き来ができない二世帯住宅になっているとのこと。このような二世帯住宅は、かつては建物敷地の内、父上の建物持ち分に相当する部分(このケースでは敷地の2分の1)だけが特例の対象でした。

しかし、現行の税法では、このような完全独立型でも敷地全体に対して、減額特例の対象とすることが可能となっています。ただし、ご注意いただきたいのは、建物の登記の仕方です。

A様と父上は上下階で区別し、建物のどの部分を誰が所有しているかが明確になっています。このような登記を区分所有登記と言います。一方、各人の建築資金の負担額は区分所有登記の場合と同じでも、全体をA様と父上が2分の1ずつ持っているという登記を、共有登記といいます。この場合は誰がどの部分を所有しているかは判然とせず、すべての部分を2人で共有していることを示すものなのです。

実は、同じ二世帯住宅で内部で自由に行き来ができてもできなくても、建物の登記が区分所有登記になっていると、敷地全体に評価減の特例は受けられないのです。父上の建物持ち分に相当する部分にだけしか、敷地の評価は減額されないのです。外から見れば、全く同じ二世帯住宅が、登記ひとつで特例の適用範囲が異なるのです。

それでは、すでに区分所有登記をしてしまった方が救われる方法はないのでしょうか。少し面倒ではありますが、区分所有登記を共有登記に今から変更すればいいのです。と言葉で言えば簡単ですが、実務的にはけっこう煩雑です。

まずは図のように親子でそれぞれの持ち分を交換します。1階の父上の持ち分の半分と2階のA様の持ち分の半分との交換です。これによって1階も2階も父上とA様の共有の状態が完成です。税務的には“交換”は、等価で金銭のやり取りが全くない場合であっても、相互に売買したことになり課税の対象となってしまいます。

話が複雑になるためここで詳述はしませんが、一定の要件を満たした場合には交換の特例の規定により、課税関係は生じません。あえて非常に大雑把な言い方をすれば、同一家屋で同程度の面積であれば、この特例の適用があると考えていいでしょう。交換の特例が適用できるかどうか、まずは税理士に相談が必要です。

交換が可能ということになれば、次はこの交換を司法書士に頼んで相互に登記をしてもらいます。これで従来は父世帯が居住し父が所有していた1階部分も、そして、子世帯であるA様が居住しA様が所有していた2階部分も、居住形態はそのままで、所有する割合が1・2階とも双方が2分の1ずつの共有となります。

しかし、これで完成ではないのです。この状態は、まだ区分所有登記となっていて、登記の上では1階にも2階にも父と子の共有の家が2軒ある状態なのです。そのため、登記簿謄本を取ると物理的には1軒の家でありながら、1階部分と2階部分の2つに分かれたものになってしまいます。

そこで、これを名実ともに1軒の家にするための登記が必要になりますが、今度は司法書士ではなく、土地家屋調査士に依頼することになります。同じ登記簿でも、先程の交換登記は所有権の登記であったため、司法書士の仕事なのですが、今度は『表題部』と言って、その物件の表紙に当たるような部分の登記なのです。この段階で登記的に2軒の建物を1軒の建物に合併・併合することにより作業は完結。晴れて1軒の共有登記の建物になるのです。

このように、実務的には税理士、司法書士、土地家屋調査士と様々な専門家の手を煩わせることになり、その作業は煩雑です。しかし、作業が多少面倒で時間と費用がかかっても、敷地全体が特例の対象となるかどうかは、相続税を考える場合に大きな影響があります。区分所有登記の状態であれば、早期に解消しておいた方がいいでしょう。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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