土地資産家のための税務講座

小規模宅地等の評価減の特例

相続税において非常に重要な影響を及ぼすもののひとつに、小規模宅地等の評価減の特例があります。面積や適用に制限はありますが、ご自宅や事業所の敷地なら80%、賃貸マンションやアパートの敷地なら50%を本来の評価額から減額できる大きな特例です。

中でも最も身近で、また適用されるケースが多いのはご自宅敷地でしょう。幾多の改正が繰り返され、とりわけ二世帯住宅については、非常にわかりづらい内容になっていますので、Q&Aの形でその内容を整理してみましょう。

Q3 ご相談者 C様

義父名義の二世帯住宅での居住は家なき子に該当するのか?

父の相続後、母が父名義の自宅の土地建物を相続し、一人暮らしをしています。母の相続人は長女である私1人ですが、私自身は義父名義の建物に義父母、夫、子で二世帯同居している状況です。母の相続にあたり、現在、母は配偶者も同居の親族もおりません。小規模宅地等の評価減の特例にあたっては、私が“家なき子”と呼ばれる相続人に該当すれば、適用があると聞いております。私がその“家なき子”に該当するのでしょうか。そして、そもそもその“家なき子”とはどういう条件を備えていればいいのか教えてください。
また、母は最近体が弱ってきており、早晩介護が必要な状況です。今後、老人ホームへ入居することも考えていますが、その場合、母にとっては実際の居住地が老人ホームになり、特例は受けられないのでしょうか。

Answer

“家なき子”に該当しますので適用あり

〈解説〉

お尋ねの“家なき子”ですが、小規模宅地等の評価減の特例を受けられるのは、誰が相続してもよいというわけではありません。対象となる敷地を誰がどのように取得するかについては、次のように定められています。

①配偶者が相続する場合には無条件で特例の適用があります。②配偶者以外が相続する場合には、被相続人と同居の親族でも適用があります。ただし、この場合には、相続税の申告期限まではその自宅に住んでいて、しかも売却などせず保有していることが条件となります。

そして、配偶者も同居の親族も両方ともいない場合に限って、初めてお尋ねの“家なき子”が相続した場合にも特例が適用されることになります。

この“家なき子”とは、ちょっと面白い言い方ですが、大切な事柄なので説明をしておきましょう。①相続開始前3年以内に日本国内に、その相続人自身、またはその配偶者が所有している家屋に住んでいないこと。つまり、持ち家には住まないということが第1の条件です。この持ち家に住んでいないこと、という条件から、通称“家なき子”と呼ばれているのです。

さらに、②その相続した土地を、相続税の申告期限まで売却せず、保有していることが第2の条件です。

従って、本来、持ち家があり、そこに住んでいる場合には、それだけで“家なき子”の条件に当てはまらないのです。C様の場合には、義父名義の家に住んでいるわけですから、母名義の土地を相続税の申告期限まで保有すれば、これらの条件すべてをクリアしていますので、特例の適用を受けることができることになります。

※本記事は2015年5月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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