土地資産家のための税務講座

小規模宅地等の評価減の特例

相続税において非常に重要な影響を及ぼすもののひとつに、小規模宅地等の評価減の特例があります。面積や適用に制限はありますが、ご自宅や事業所の敷地なら80%、賃貸マンションやアパートの敷地なら50%を本来の評価額から減額できる大きな特例です。

中でも最も身近で、また適用されるケースが多いのはご自宅敷地でしょう。幾多の改正が繰り返され、とりわけ二世帯住宅については、非常にわかりづらい内容になっていますので、Q&Aの形でその内容を整理してみましょう。

Q2 ご相談者 B様

実母と夫との共有の二世帯住宅での居住では特例は適用されるのか?

5年前に父が亡くなったのを機に、夫は義母である私の母との共有で二世帯住宅を建て、同居をしています。敷地はもともと父の所有であったものを母が相続したもので、建物は母と夫が6:4の割合で所有しています。母が亡くなり、私がこの土地建物を相続した場合、自宅敷地については全体が小規模宅地等の評価減の特例を受けられるのでしょうか、それとも母の建物持ち分に相当する10分の6だけになるのでしょうか。

また、母は最近体が弱ってきており、早晩介護が必要な状況です。今後、老人ホームへ入居することも考えていますが、その場合、母にとっては実際の居住地が老人ホームになり、特例は受けられないのでしょうか。

Answer

敷地すべてに特例が適用、相続開始時に要介護等の認定を受けていれば、ホームへ入居でも特例の適用はOK

〈解説〉

建物の持ち分が6対4であるため、小規模宅地等の評価減の特例の適用範囲も、それに相当する10分の6だけしか対象にならないのかというご心配だと思います。結論から申しあげれば、仮に母上が全く建物を所有していない場合でも、親族であるB様の夫が建物を所有し、母上と同居しているため、敷地全体が特例の適用対象となります。  従って、将来の相続を考えて、建物の持ち分を贈与したり売却したりして、母上の持ち分を増やす必要はないでしょう。

基本的には二世帯住宅であれば、Q1で述べた区分所有でない限り、小規模宅地等の評価減の特例は敷地全体に及ぶと考えていいのです。

さて、母上は将来老人ホームへの入居もあり得るとのこと。ご質問の趣旨は、老人ホームへ入居した場合、老人ホームこそが実際に起居をしている本拠地となってしまう。従って、現在のお住まいには住んでいないため、居住用と言えないのではないか、ということだと思います。

確かに文字通りの解釈では、居住用の特例の対象とは言えないかも知れません。また、実際問題として、かなり厳格な要件を満たさない限り、ひとたび老人ホームに入居してしまうと、適用対象から外れてしまう取り扱いがなされていた時期もありました。

しかし、現在は次の2つの要件を満たしていれば、“自宅”として小規模宅地等の評価減の特例が認められます。

①要介護認定または要支援認定を受けて老人ホームへ入居していたこと
②かつてお住まいになっていた自宅を他に貸付け等をしていないこと

逆の見方をすれば、健常な状態で介護も必要ないのに老人ホームへ入居をした場合には、この適用は受けられないということです。

しかし、入居当時は健常な状態ではあっても、その後介護などが必要になることもあると思います。適用ができるか否かの判断は、あくまでも“相続開始時”という言い方をするのですが、亡くなられた時点での状況次第なのです。従って、入居当初はお元気でも、その後介護などが必要となって亡くなられた場合には、特例の対象となるわけです。

なお、老人ホームならどんなものでもよいわけではありません。一定の許可を受けた老人ホームだけがその対象となりますので、入居に際しては事前に確認しておくことが大切です。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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