土地資産家のための税務講座

最後のメッセージとしての遺言を考える

“エンディングノート”という言葉をご存じの方も多いと思います。60歳以上を対象としたある調査では、この言葉を知っている人は65%、今後書いてみたい人は47%に対し、実際に書いた人は6%に過ぎないそうです。必要とわかっていても、障壁になっているのは『書くこと』で、なかなか書き始められない方が多いようです。ただ、そもそもこれはあくまで個人的な覚え書き。法律的に有効なものを考えれば、やはり遺言書の作成をおいてほかにはないでしょう。というわけで、今回は遺言書にスポットを当ててみました。

遺言書の種類

遺言書と一口に言っても、 ①自筆で1人で作る自筆証書遺言から、 ②公証役場で作る公正証書遺言、少し変わったところでは、③秘密証書遺言など様々な種類のものがあります。③は特殊なので別にしても、エンディングノートの延長線で考えれば、誰にでも簡単にできるものとしては、①の自筆証書遺言になるでしょう。ただ、これは1人で作るため、法的な有効性の不安がありますし、誰にも知らせずにいたら、それこそ発見されない可能性もあるのです。

まず結論から言ってしまえば、この自筆証書遺言は絶対にお勧めできない方法です。その理由は後程説明することにしますが、やはり②の公正証書遺言が一番安心で確実な遺言書です。 

公正証書遺言なら、作成に際し証人が2人立ち会ってくれ、正本と謄本という原本のコピーが2つ手元に残ります。ひとつを遺言執行者に渡し、もうひとつは配偶者や信頼できる人に生前から渡しておけば、一層安心できることでしょう。また、そのコピーを仮に2つとも紛失しても、原本は公証役場で半永久的に保管してくれるのです。この遺言書、書面自体は公証人が専門家として作成したもの、法律的な面でも信頼性の高いものになっています。

自筆証書遺言の危険性

自筆証書遺言は、誰にもその内容を知られることなく作成することができます。変更も自分の気分次第で簡単にでき、費用も一切かかりません。

その点では自筆証書遺言は手軽でいいのですが、そのことが、逆に欠点にもなり得るのです。詳細は後述するとして、遺言者の死後に自筆証書遺言を誰かが発見した場合、本来は開封前に家庭裁判所に持参して、『検認』という確認の手続きが必要になります。ただ、これはこういう紙に黒のボールペンで記載されていましたよ、という程度のもの。法律的な有効性を保証するものではありません。

また、検認をおこなわなかったからといっても、簡易な五万円以下の過料ですんでしまいます。ただ、誰かが改ざんをしたとか、一部を破棄したとか言われても迷惑な話。規定に則って検認はしておく方がよいでしょう。

こんな事例がありました。昔のお客様で、相続人全員が揃っていたこともあったのでしょう。この検認をせず、皆の前で遺言書を開封したそうです。そうしたら、相続人の1人である子供Xは自分に不利な内容だったことに立腹。開封者が一通り全文を読み終えると、遺言書を取り上げ、庭に出て焼却してしまったそうです。もちろん、それからは大変な争いに発展したことは、想像に難くありません。

地主さんがとくに間違えやすい自筆証書遺言

これもあるお客様の事例です。先妻との間に子供が2人、後妻との間にも子供が1人いたのです。ご自分の相続については、税負担の観点よりも、むしろ面倒な人間関係を意識してのことだったのでしょう。自筆証書の遺言を残しておられたのです。

この方、大変な倹約家だったそうで、爪に火を灯すような生活をしては小金を貯め、投資物件をいくつかお買いになっていたようです。1銭だって無駄遣いはしたくない。そんな思いもあって遺言書も自筆証書遺言でした。これならとにかく費用は1円もかかりません。

このケースでは、後妻が相続人間の人間関係を意識してか、先妻の子供たちにも気をつかいながら検認も受け、手続きを進めたようです。そのうえで、当方に相続税の申告書作成をご依頼いただきました。その過程でわかったのは、遺言書にいくつかの土地の記載がなく、財産として漏れてしまっていることでした。

どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。皆さんが複数の土地をお持ちだとして、それを漏れなく遺言書に記載しようとすれば、何を頼りに書き始めるでしょう。何を見ればすべての土地が網羅されているとお考えになるかということです。すぐに「固定資産税の納税通知書」が頭に浮かんだ方も多いと思います。これなら市町村ごとにはなりますが、税金が掛かる元の資料です。一見、漏れはなさそうですし、このお客様もそれをもとに遺言書を作成したようなのです。

結論から先に言うと、これには漏れがある場合がかなりあるのです。税金が掛かるのに漏れるのか、という疑問もあるでしょうが、逆に言うと固定資産税という税金の掛からない土地は、この納税通知書には記載がないことが多いのです。それではどんな土地が記載されないのでしょうか。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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