土地資産家のための税務講座

遺族に“争続”させないための、正しい遺言の残し方

ご自身の相続が発生した際に、その遺志や財産を家族が揉めることのないよう引き継ぎたい。そのための手段として「遺言書」は広く知られており、法的な庇護を受けられる唯一の手段と言えます。ただし、この遺言書の作成には厳密なルールがあり、それに従わずに書かれた遺言書は無効とされたり、却ってトラブルの元になりかねません。そこで今回は、間違いのない遺言書の残し方についてまとめてみましょう。

典型的な例は位置指定道路

典型的な例としては、「位置指定道路」があげられるでしょう。建物を建築する場合、その敷地は最低でも2mは接道していなければなりません。それができない場合、接道義務を果たせるように、特別に公道と同様に扱えるように認められた私道を設けます。この私道のことを、位置指定道路というのだとご理解ください。

この位置指定道路が、すべて固定資産税の課税を免れているわけではありません。ただ、多くの場合、課税の対象になっていないのが実情なのです。そのため、この部分は固定資産税の明細にも記載がなく、これを元にご自身の土地を把握しようとすると、うっかり財産として漏れてしまうことになるのです。

この事案の場合、位置指定道路はそもそも貸家の敷地に接している私道でした。そのため、常識的にはその敷地と貸家を相続する人があわせて取得すべきでしょう。そうでないと、これを相続した人と、それに接する私道を相続した人とが別々になってしまうこともあるからです。

しかし、このケースでは遺言書に私道である位置指定道路の記載がない以上、遺産分割協議をしたうえで相続をしなければなりません。その段階で、ほかの相続人から思わぬ意地悪をされたり、その道路を貸家の相続人に相続させる代わりに、何らかの条件を出してくることも考えられます。つまり、このような財産の記載漏れがあると、本来は何の争いにもならないことまでもが、争いの種にもなり得るのです。

遺言を作るなら公正証書遺言

このようなことをいろいろと考慮し、何よりも安全を重視して遺言を作成するなら、必然的に公正証書遺言になります。

公正証書遺言は、建て付けとしては遺言者が公証人の前で述べた事柄を公証人が聞き取り、それを書面にしたものとなっています。ただ、実務的には税理士などが事前に遺言者にヒアリングをして草案を作成し、それを遺言者の意向として公証人に書面で伝えます。公証人は法律面で問題があれば、その点を修正して最終案とします。それを遺言者に再度確認してもらったうえで、公証人に実際の遺言書を作成してもらうのです。当日は、遺言者と2人の証人が公証人役場へ赴き、または公証人に自宅や病院などに来てもらいます。公証人が遺言者の前ですでに用意された遺言書を読み上げるので、間違いがなければ、それに署名・押印をするだけの手続きです。

公証人の多くは裁判官や検事の経験者で、いわば法律のプロ中のプロ。従って、基本的には前述のように、法律的な問題点は事前に草案の作成時点で解決してもらえます。後日、問題になるような作り方はしないので、非常に安心感があります。

作成にかかる費用は財産の額や相続させる人数によって異なります。例えば、総額1億円の財産を妻1人に相続させる場合には、54,000円。同じ1億円でも、妻に6,000万円、長男に4,000万円相続させる場合には、妻、長男との合計で83,000円という具合です。

なお、公正証書遺言は、遺言者が相続人からの威嚇や脅かしによらず、真に自らの意志にもとづくものであることが絶対条件です。従って、証人2人はその場に立ち会いますが、相続人や関係者は同席できません。また、認知症など、正常な判断ができないと公証人が判断した場合には、公正証書は作成できないことになります。

小規模宅地等の評価減の特例も適用方法を考えて

また、話は変わりますが、相続人間に争いが起こりそうな場合には、法的な効力まではないのですが、遺言書に小規模宅地等の評価減の特例の適用についても記載しておきたいものです。この特例はご自宅やアパート・賃貸マンション等の貸家、店舗や工場等の事業用の建物の敷地に適用ができるものです。適用面積に差はありますが、ご自宅と事業用の土地は80%引き、貸付用で50%引きの評価になるという大きな特例です。

この特例では、どの土地に適用した場合でも適用する土地によって減額される金額は異なりますが、評価額自体は減少します。その結果、相続人が全員で納めるべき相続税の総額は減少することになるのです。

しかし、各人の税負担は実際に相続した財産の多寡による按分です。自分の土地にこの特例を適用すれば、評価額が下がるので、按分計算のときも自己負担分の割合が低く抑えられ、税額は軽減されます。誰だって自分の相続する土地に適用するのが有利。このことで争いが大きなものにもなり得るのです。

それでも自筆証書にこだわるなら

相続問題を自分1人で考えようとすると、思わぬところで失敗することになりかねません。とくに自筆証書遺言はこれまで説明してきたように様々な問題もあり、決してお勧めできるものではありません。ただ、それでも自筆証書遺言にこだわる方に、最低限覚えておいていただきたいことがあります。遺言書に次のことを書くのです。「上記に記載のない財産については、すべてを○○に相続させる」。これで少なくとも記載漏れだけは防げます。

遺言書は家族に送る、人生最後の大切なメッセージです。多少の費用はかかっても、専門家に相談し、法律も税務も検討したうえで作成することが必要なのではないでしょうか。

※本記事は2014年9月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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