スペシャリスト ビュー

国立大学法人 東京藝術大学 絵画科教授 中村 政人 氏

地域と人々の絆を育むアートとコミュニティの新しい関係を目指して
持続可能性を実現しながら地域社会の課題を解決する「コミュニティアート」の力

アートと地域で協創する「東京ビエンナーレ2020」

そんなコミュニティとアートと産業を一体化させるような取り組みを、より大きなスケールで展開する試みとして、現在、私たちが準備を進めているのが「東京ビエンナーレ2020」です。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催期間に合わせて、多様で個性豊かな文化が蓄積されてきた都心北部・東部を中心に、それぞれのエリアを繋げるような数千ものアートプログラムを同時展開したいと考えています。それらは私たちが主体となるものだけでなく、フレームを作って様々な人々に参加してもらうような仕組みもつくる予定です。

そして、アートと産業やコミュニティを融合する本芸術祭の大きな特徴が、アートの専門家である企画ディレクターと地域の代表であるエリアディレクターが一体となって個々のプログラムをつくりあげていくユニークな運営スタイルです。アーティスト側のアイデアや考えを押し付けるのではなく、歴史や文化など地域ごとの個性や特色を意見や発想として吸い上げ、アートと地域が連携しながらプログラムを協創していきます。このようにして東京という大都市の人とのつながりを活性化してコミュニティの密度や強度が高められれば、今後、危惧される首都直下型地震など災害への心強い備えにもなるのではないでしょうか。「ビエンナーレ」の意味どおり、2020年以降も2年ごとに開催していく予定ですが、今後コミュニティ形成や新しい産業形成にアートが果たす役割がますます大きくなっていくことを信じてやみません。

ちなみに、ここ「3331」の名前の由来は、「シャン・シャン・シャン」を三度打って、最後に1拍の「シャン」で締める神田一本締めです。お祭りや催事、集まりの席で、そこに集う人々の心を一瞬でつなぐこの「手締め」は、豊かなコミュニティの象徴でもあります。アートを契機にして、人と人、地域と地域を結び付けていく活動の中で、そんなプログラムをひとつでも多く私たちの社会に生み出していければうれしいですね。

※本記事は2018年9月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

1963年秋田県大館市生まれ。アーティスト。3331 Arts Chiyoda統括ディレクター。東京藝術大学絵画科教授。1993年、銀座でのゲリラ展「THE GINBURART」から多くのアートプロジェクト を企画・制作。1997年よりアーティストイニシアティブコマンドN主宰。2010年よりアーティスト主導、民設民営のアートセンター「3331 Arts Chiyoda」を立ち上げ、現在「東京ビエンナーレ2020」を準備中。2018年日本建築学会文化賞受賞。

国立大学法人 東京藝術大学 絵画科教授

中村 政人 氏

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