今回ご紹介するのは、最近、相続で都内や隣県の都市部などに複数の収益用不動産を受け継がれたばかりのA様(60歳)です。まだご所有資産の状況が全くわからない状況でしたが、将来ご自身の相続が生じた際、ご所有資産のために相続税や遺産分割などの問題で奥様や2人のお子様たちに迷惑がかかってしまうことを危惧されていました。
そこでプロの力を借りて、一度それぞれの資産について現在の状況を確認したうえで、課題を整理しておきたかったA様。相続対策や節税対策などに関するプロからのアドバイスを参考にしながら、必要があれば資産の組み換えも含めて対策を検討するつもりだったそうです。
A様からのご相談を受けた三井不動産リアルティではまず、「資産ドック」による現状分析を実施し、ご所有資産の種別やその実勢価格、流通性、さらに相続税評価額の圧縮効果を評価。A様は、わかりやすいグラフなどで視覚的に把握することができました(図1)。
各不動産の現状と課題
①一戸建てのご自宅(築9年)
A様も手放す気持ちはなく、現状維持で特に問題はありません。
②都心部の区分所有マンション(築4年)
駅徒歩2分の築浅タワーマンションで市場流通性に優れており、相続税評価額の圧縮効果も見込めるため、有効な相続税対策となっています。
③隣県のアパート(築10年/計6戸)
相続税圧縮効果があり、現時点では特に対策の必要はありません。ただしターミナル駅から少し離れており、築10年超のため、今後は競争力低下のリスクがあります。
④都内のアパート(築4年/計8戸)
ご所有資産の中で最も収益力の高い資産です。築浅で資産価値も高く、一定の相続税圧縮効果も確保されています。稼働状況も良好で賃料下落の兆候も見られません。
⑤都内の一棟マンション(築27年/計10戸)
相続税圧縮効果や賃料、稼働率は一定水準を維持していますが、駅徒歩10分で築年数が30年近いことから、将来の賃料下落リスクと大規模修繕に伴うコスト増大が予想されます。
三井不動産リアルティからのご提案
A様のご所有資産は区分所有マンションと一棟マンション・アパートが中心で、すべての資産について相続税圧縮効果が確保されています。60歳というご年齢も踏まえ、早急な相続対策は不要と判断し、現状維持をお勧めしました。
ただし、将来の円滑な資産承継のためには、相続人間で分割しやすい資産への組み換えが必要となるかもしれません。その場合は、築年数やエリア特性を考慮して「③隣県のアパート」と「⑤都内の一棟マンション」の組み換えを優先的に検討すべきとお伝えしました。
資産価値は築年数の経過や修繕状況、賃貸マーケットの動向に応じて日々変化するため、定期的に現状を把握し、場合によっては早めに対策を講じる必要があります。なお、A様には所得税の節税や分割時のトラブル回避の手法として法人設立についてのご提案もおこないました。
資産の現状把握を通じて残したい不動産の優先順位が明確になり、A様にはご安心いただけたようです。当社の助言をもとに今後の対策を検討されることになり、当社ではまず敷地測量が不完全だった資産について測量をサポートし、高額な管理コストやメンテナンス費用を低減するために新しい管理会社をご紹介しました。
A様は法人設立にも興味をお持ちで、今後は年1~2回は資産ドックを実施して資産状況を家族内で共有し、話し合いの機会を増やしたいとのことです。
※本記事は2021年1月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
三井不動産リアルティ株式会社
ソリューション事業本部
コンサルティング営業一部
曽我部 陽平
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