筆界特定制度について(3)
今回は筆界特定に要する費用について、お話したいと思います。
筆界特定の手続きに必要な費用は、大きく分けると以下のようになります。
(1)申請手数料(筆界特定の申請に必要な手数料)
(2)手続費用(筆界特定の手続きにおける測量等に必要な費用)
(3)代理人等の費用(代理人の報酬、私的に鑑定する場合の費用など)
(4)閲覧・謄写の費用(筆界特定手続記録等の閲覧・謄写に要する費用)
上記の(3)については、依頼する案件の内容や、依頼する代理人等(資格者代理人・鑑定人)によって、報酬金額が違うので、ここでの説明は省略します。なお、代理人等の費用については、各自の負担となります。また、(4)の閲覧・謄写の費用については、前回説明しましたので、そちらをご覧下さい。
ここでは、(1)申請手数料と(2)手続費用について説明したいと思います。
1.申請手数料
申請手数料は筆界特定の申請時に、政令で定めるところにより、申請人が納付しなければならないものです。手数料を納付しないときは、申請は却下されます。
手数料の納付
原則収入印紙を申請書に貼り付けて納付を行いますが、筆界特定を電子申請で行った場合には、現金で納付することができます。
正確な手数料額が算出できない場合(過小納付)
申請をする際に正確な手数料額を算出できない場合には、仮の手数料額を算出し納付します。その後、筆界特定登記官による補正の指示を受けて不足分を納付することができます。
手数料を過大に納付した場合
過大に納付していた場合には、手数料を納付した法務局または地方法務局に対して還付請求書を提出することによって、金銭の還付を受けることができます。
取り下げまたは却下された場合
筆界特定申請後、公告および通知がされる前に筆界特定の申請が取り下げられ、または却下された場合には、筆界特定登記官は納付すべき手数料の2分の1を控除した金額を還付しなければならないとされています。この場合の取り扱いも、過大納付の場合と同様に還付請求書を提出します。
申請手数料の算出方法
以下の(1)→(2)→(3)の順で計算をします。また、申請手数料は筆界ごとに計算をします。つまり、1通の申請書で複数の筆界の特定を申請する場合には、筆界ごとに申請手数料を計算し、それを合算します。
(1)対象土地の価額の算出
(a)固定資産課税台帳に登録された価格のある土地
- 筆界特定の申請日が1月1日~3月31日
前年の12月31日現在において課税台帳に登録された当該土地の価格 - 筆界特定の申請日が4月1日~12月31日
その年の1月1日現在において課税台帳に登録された当該土地の価格
(b)固定資産課税台帳に登録された価格のない土地
- 近傍類似の土地の価格を基礎として筆界特定登記官が認定した価額
(2)基礎となる額の算出
上記(1)で算出したそれぞれの対象土地の価額を合計して、その合計額の1/2を算出します。この額に5/100を乗じた額が、算定基礎額となります。
《対象土地の価額の合計額×2分の1×0.05=算定基礎額》
(3)手数料の算定
上記(2)で算出した算定基礎額を次の表に当てはめて手数料を算出します。
算定基礎額 ※1 | 切上単位 | 単価 | 加算額 | 速算式 ※2 |
---|---|---|---|---|
100万円までの部分 | 10万円 | 10万円まで毎に800円 | 0円 | A/10×800 |
100万円を超え 500万円までの部分 |
20万円 | 20万円まで毎に800円 | 100/10×800=8,000円 | (A-100)/ 20×800+8,000 |
500万円を超え 1,000万円までの部分 |
50万円 | 50万円まで毎に1,600円 | (500-100)/20×800+ 8,000=24,000円 |
(A-500)/ 50×1,600+ 24,000 |
1,000万円を超え 10億円までの部分 |
100万円 | 100万円まで毎に2,400円 | (1,000-500)/ 50×1,600 +24,000=40,000円 |
(A-1,000)/ 100×2,400+ 40,000 |
10億円を超え 50億円までの部分 |
500万円 | 500万円まで毎に8,000円 | (100,000-1,000)/ 100×2,400+40,000= 2,416,000円 |
(A-100,000)/ 500×8,000+ 2,416,000 |
50億円を超える部分 | 1,000万円 | 1,000万円まで毎に8,000円 | (500,000-100,000)/ 500×8,000+2,416,000= 8,816,000円 |
(A-500,000)/ 1,000×8,000+ 8,816,000 |
※1 算定基礎額とは、対象土地の価額の合計額の2分の1に5%を乗じた額である。
※2 「A」とは、「算定基礎額」を「切上単位」の刻み額を単位として端数を切り上げた額(例えば175万円であれば180万円)を1万円で除した値を指す。
具体例
対象土地の一方の価額が2,000万円、他方の価額が5,000万円の場合、算定基礎額は、(2,000万円+5,000万円)×2分の1×0.05=175万円(算定基礎額)です。175万円ですので、「100万を超え500万円までの部分」の欄の速算式を使用します。Aは算定基礎額を切上単位(20万円)で端数を切上げ、1万円で除した値なので180となり、(180-100)/20×800+8,000=11,200円となります。
手数料の負担
(1)同一の筆界について、複数の申請が同時になされた場合
申請の個数は複数ですが、特定すべき筆界は1つなので、1つの筆界特定の申請とみなし、申請手数料も1件分の筆界特定の手数料を納付すれば足ります。
(2)同一の筆界について、複数の申請が時期を異にしてなされた場合
既に申請されている同一の筆界について、複数の筆界特定の申請があっても、これを1つの申請とみなし、1件分の手数料を納付すれば足ります。
(3)申請人が複数いる場合
申請人が複数いる場合の各申請人の負担割合は、法令では定められていないので、申請人間で決定することになります。
2.手続費用
手続費用とは、筆界特定の手続きにおいて、筆界特定登記官が相当と認める者に命じて行わせた測量や、地質、植生等に関する鑑定その他専門的な知見を要する行為について、その者に支給すべき報酬及び費用の額として筆界特定登記官が相当と認めたものを指します。手続費用は、筆界特定の申請人の負担となります。手続費用を申請人が予納しない場合には、申請は却下されます。
手続費用の算出
手続費用の概算額は、「測量報酬及び費用に関する標準規程」に基づいて各法務局または地方法務局において、独自に定めた報酬規定により算定することになります。つまり、手続費用の概算額はケースバイケースであり、全国一律、かつ定額的に決まっているわけではありません。
手続費用の納付方法
筆界特定登記官は、手続費用の予納が必要となったときは、申請人に対し、手続費用の概算額を予納させなければなりません。筆界特定登記官は適宜の方法により、申請人に対して手続費用の概算額の告知を行います(予納の告知)。実務上は筆界特定登記官が申請人に保管金提出書を交付し、申請人はこれに基づいて、筆界特定手続きがなされている各法務局または地方法務局の本局の供託課に現金を持参する方法、または取扱日本銀行に振り込む方法で納付します。
予納命令
予納の告知をした日から相当期間を経ても予納がない場合には、納付期限(1~2週間が目安)を定めて予納命令を発します。予納命令に対して納付期限までに予納がない場合には、申請は却下されます。
手続費用の負担
(1)申請人が2人の場合
申請人の1人が対象土地の一方の土地の所有権登記名義人等であり、他の1人が他方の土地の所有権登記名義人等であるときは、各筆界特定の申請人は、等しい割合で手続費用を負担します。
(2)申請人が2人以上の場合
申請人全員が対象土地の一方の土地の所有権登記名義人等であるときは、各筆界特定の申請人は、その持分の割合に応じて手続費用を負担します。
(3)申請人が3人以上の場合
申請人の1人または2人以上が対象土地の一方の土地の所有権登記名義人等であり、他の1人または2人以上が他方の土地の所有権登記名義人等であるときは、対象土地のいずれかの土地の1人の所有権登記名義人等である筆界特定の申請人は、手続費用の2分の1に相当する額を負担し、対象土地のいずれかの土地の2人以上の所有権登記名義人等である各筆界特定の申請人は、手続費用の2分の1に相当する額についてその持分の割合に応じてこれを負担します。
(4)申請人間で合意がある場合
上記(1)(2)(3)は申請人間で特に合意がない場合の負担割合を定めたもので、強行規定ではありません。申請人間の合意により上記の負担割合を変更することができます。
手続費用の保管・払出し
申請人が納付した手続費用は、測量費用等必要な額が生じた場合にはこれを支出し、適切に管理することとされています。なお、余剰金が発生した場合には、申請人に還付されます。
今回までのお話で筆界特定制度の概要はお分かり頂けたかと思います。次回は、筆界特定制度についてのQ&Aを行いたいと思います。
昭和38年生まれ。平成7年土地家屋調査士登録。測量を通してお客様に「安心」を提供することを目的に平成9年株式会社測量舎を設立。誠実・確実・迅速を合言葉に年間100現場以上の境界確定測量。平成18年土地家屋調査士法人測量舎を設立。ADR認定土地家屋調査士、測量士。
高橋一雄土地家屋調査士事務所
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