資産承継

筆界特定制度について(2)

筆界特定制度について(2)

今回は筆界特定制度の手続きについて見ていきましょう。

筆界特定制度の手続きの特徴は、裁判のように隣接する土地の所有者同士が原告・被告となって、主張や証拠を提出するといった当事者対立構造をとっていないことです。

これは、筆界が公法上の境界であることから、筆界特定登記官が公正・中立な立場で客観的に正しい筆界の位置を特定することを目的としているからです。そのため、証拠調べについても、外部の専門家である筆界調査委員(主に土地家屋調査士)とこれを補助する法務局の職員が、職権で必要な資料の収集や、必要な事実調査を行うこととされています。

また、申請人のほか隣接地の所有権の登記名義人等には次の手続保障の機会が与えられています。

(a)筆界特定の申請の通知
(b)測量・実地調査の通知、立会いの機会
(c)意見陳述または資料提出の機会
(d)調書および提出資料の閲覧請求
これは、筆界特定制度が外部の専門家である、筆界調査委員の意見書をもとに筆界特定登記官が判断をする構造になっているため、当事者に手続保障を与えないと、最も利害関係があるにも関わらず、蚊帳の外に置かれた状態で筆界特定がなされてしまうというおそれがあるからです。

それでは、手続きの流れ(概要)について順番に見ていきましょう。

(1)申請書類の提出

筆界特定の申請書は、土地の所有権登記名義人等が、法務局または地方法務局の窓口に直接または郵送により申請することができます。また、対象土地の管轄登記所を経由して申請することもできます。ちなみに東京法務局の窓口は、不動産登記部門です。

(2)受付

筆界特定の申請書が申請されると、筆界特定登記官はその申請書を審査し、適正であれば受理されます。ただし、対象土地の所在地が当該申請を受けた法務局または、地方法務局の管轄に属さない場合や、申請権限を有しない者からの申請の場合は、筆界特定登記官はその申請を却下しなければなりません。ただし、申請人が補正した場合には例外となります。

(3)公告・通知

申請があった場合には、筆界特定登記官はその旨を公告(本局及び管轄登記所に掲示)し、かつ、対象土地の所有権登記名義人等であって筆界特定の申請人以外の者及び、関係土地の所有権登記名義人等に通知しなければなりません。

(4)筆界調査委員の指定

法務局または地方法務局の長は、公告及び通知がされたときは、筆界調査委員を指定しなければなりません。

(5)実地調査・現況測量

筆界調査委員は、上記(4)の指定を受けたときは、対象土地・関係土地・その他の土地の測量(現況測量)または実地調査を行います。

具体的には、対象土地の確認、境界標の有無、占有状況等の構築物、道路や水路の位置、地形などを調査します。また、筆界特定の申請人・関係人・その他の者からその知っている事実(主張する筆界の位置・その根拠・紛争の経緯・現地の使用状況等)を聴取し、または資料の提出を求め、必要な事実の調査を行います。

筆界調査委員は、対象土地の測量または実地調査を行うときは、あらかじめ、その旨(日時・場所)を筆界特定の申請人・関係人に通知し、これに立ち会う機会を与えなければなりません。

(6)手続費用の予納

手続費用とは、筆界特定登記官が相当と認める者に実施させる、測量(特定測量)や地質・植生等に関する鑑定その他専門的な知見を要する行為についての費用のことです。

この手続費用は申請人の負担となります。筆界特定登記官は手続費用を算定し、筆界特定の申請人に対し手続費用の概算額を供託所に予納させなければなりません。相当な期間を経ても予納が無い場合は、申請が却下されます。

(7)特定調査(特定測量)

特定調査とは、筆界調査委員が対象土地に係る筆界を特定するための調査のことです。

事前準備調査の結果を踏まえ、申請人及び関係人に対し、立ちあう機会を与えた上で、対象土地の測量(特定測量)または実地調査を行い、筆界点となる可能性のある点の位置を現地において確認し、記録します。なお、筆界特定登記官の命を受けて、特定調査における測量(特定測量)を実施する者を測量実施者と言います。

(8)意見聴取等の期日

筆界特定登記官は上記(3)の公告をした時から筆界特定をするまでの間に、筆界特定の申請人及び関係人に対し、あらかじめ期日及び場所を通知して、対象土地の筆界について、意見を述べ、または資料を提出(書類の場合は3部)する機会を与えなければなりません。

また、適当と認める者に、参考人としてその知っている事実を陳述させることもできます。なお、申請人及び関係人は上記(3)の公告があった時から筆界特定がされるまでの間、筆界特定登記官に対し、当該筆界特定の手続において作成された調書及び提出された資料の閲覧を請求することができます。この場合の閲覧手数料は不要です。

(9)意見書の提出

筆界調査委員は、上記(8)の期日の後、対象土地の筆界特定のために必要な事実の調査を終了したときは、遅滞無く、筆界特定登記官に対し、対象土地の筆界特定についての意見(意見書・意見書図面)を提出しなければなりません。

(10)筆界特定

筆界特定登記官は、上記(9)の筆界調査委員の意見が提出されたときは、その意見を踏まえ、登記記録、地図または地図に準ずる図面及び登記簿の付属書類の内容、対象土地及び関係土地の地形、地目、面積及び形状並びに工作物、囲障又は境界標の有無その他の状況及びこれらの設置の経緯その他の事情を総合的に考慮して、対象土地の筆界特定をし、その結論及び理由の要旨を記載した筆界特定書を作成しなければなりません。

また、筆界特定書においては、図面及び図面上の点の現地における位置を示す方法として、基本三角点に基づく測量の成果による筆界点の座標値により、筆界特定の内容を表示しなければならないとされています。

(11)筆界特定の公告・通知

筆界特定登記官は、筆界特定をしたときには、遅滞なく、筆界特定の申請人に対し、筆界特定書の写しを交付する方法により当該筆界特定書の内容を通知するとともに、筆界特定をした旨を公告(本局及び管轄登記所に掲示)し、かつ、関係人に通知しなければなりません。

(12)筆界特定手続記録の保管

筆界特定手続記録とは、筆界特定手続きにおいて提出・作成された申請書、意見書、筆界特定書、提出された資料、筆界調査委員が作成した測量図、筆界特定の手続きにおいて測量または実地調査した結果に基づいて作成された図面、作成された調書等、筆界特定手続きの記録を指します。

上記(11)により筆界特定の申請人に対する通知がされた場合における筆界特定の手続の記録は、対象土地の所在地を管轄する登記所において保管されます。また、筆界特定がされた筆界特定手続記録または筆界特定書等の写しの送付を受けた登記所の登記官は、対象土地の登記記録に、筆界特定がされた旨を記録しなければなりません。

(13)筆界特定手続記録の公開

誰でも登記官に対し、手数料を納付して、筆界特定手続記録のうち筆界特定書または筆界調査委員が作成した測量図・筆界特定の手続きにおいて測量または実地調査した結果に基づいて作成された図面の全部または一部の写しの交付を請求することができます。

また、だれでも登記官に対し、手数料を納付して、筆界特定手続記録の閲覧を請求することができます。ただし、筆界特定書以外のものについては、請求人が利害関係を有する部分に限定されます。

ちなみに、公開に関する手数料は次の通りです。

  • 筆界特定書の全部または一部の写しは、1通につき1,000円
  • 筆界特定の手続きにおいて、測量または実地調査に基づき作成された図面の全部または一部の写しは、一図面につき500円
  • 手続記録と筆界特定の手続きにおいて、作成された調書及び提出された資料の閲覧の手数料は、一手続に関する記録につき500円

以上、筆界特定制度の手続きについて見てきました。次回は筆界特定の手続きに要する費用について見ていきたいと思います。

昭和38年生まれ。平成7年土地家屋調査士登録。測量を通してお客様に「安心」を提供することを目的に平成9年株式会社測量舎を設立。誠実・確実・迅速を合言葉に年間100現場以上の境界確定測量。平成18年土地家屋調査士法人測量舎を設立。ADR認定土地家屋調査士、測量士。

高橋一雄土地家屋調査士事務所

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