地下埋設物が存在している土地の物納(2)
長年不動産取引に関わっていると、信じられない物が地中から発見されることがあります。
一口に地下埋設物が存在していると言っても、その埋設物の種類・量・取引内容(売買・賃貸・物納申請)等によっても取り扱いが異なります。今回のコラムでは、過去に手掛けた地下埋設物に関わる事例を通じて、売買と物納でどの様に地下埋設物の扱いが異なるのかをご紹介致します。
土壌汚染物質や産業廃棄物が発見されたケース
これまでに、土壌汚染物質や産業廃棄物などが発見された事案には、行政が宅地造成や土盛りを行っていながら、埋設物が発見された理不尽な案件が複数ありました。
1件目の事案は、40年以上も前に行政が施工した土地区画整理事業による造成宅地内から、土壌汚染物質が発見された事案です。地主さんは、土地区画整理事業の換地指定により、その土地を取得し、長らく月極駐車場として利用していました。その後、数年前に土地売却のご相談があり、不動産業者に対象地を売却しました。その不動産業者も対象地を直に第三者に転売しましたが、その買主が建物を建築するためのボーリング調査を行った際に、対象地から廃油・鉛・フッ素といった土壌汚染物質が存在することが判明しました。その後、土壌汚染の改良工事を求めた買主が不動産業者を提訴し、不動産業者も旧所有者の地主さんに対して瑕疵担保請求を起こした事案でした。
通常の不動産売買では、契約締結後に土壌汚染物質等の存在が明らかとなった場合は、売主の費用と責任においてこれを撤去するか改良工事を実施するのが一般的です。しかし、売主が売却物件の瑕疵担保を永遠に負わされるとしたら、リスクが高すぎて不動産を売却する人がいなくなるでしょう。そこで、引き渡し日から一定期間に限り売主が瑕疵担保責任を負うこととし、契約締結前に売主と買主による話し合いでその期間を決定するのです。
ちなみに、この地主さんと不動産業者の契約は、物件引き渡し日から3か月以内は売主が瑕疵担保責任を負う契約としていたため、引き渡し日から3か月を経過した後に瑕疵担保請求を受けても、売主はこの請求に対処する理由が無い訳です。
2件目の事案は、3代前の祖父が地元に公立高校を作って欲しいと行政に広大な土地を寄付し、その土地の隣接地からお孫さんの代になって、産業廃棄物が発見されたという事案です。
お孫さんに寄れば、学校用地を寄付した当時、行政から『隣接する地主さんの所有地も、学校用地と一緒に土盛りをして、道路面と高低差を無くしましょう』との申し入れを受け、数十m3の土を隣接する窪地に入れて貰った経緯があったそうです。この土の中に産業廃棄物などが混在していたようなのです。
しかし、この土地にこの様な産業廃棄物が存在していることが明らかになったのは、対象地を相続したお孫さんがその土地を物納した後のことでした。物納申請時には、地表付近で目視できるコンクリート片や大きな石を撤去するように求められましたが、地下埋設物については何の問合せも無く、確認のしようもありませんでした。
以前の物納制度では、物納許可前に『地下埋設物がない旨の確認書』を提出して、将来地下埋設物等が発見された場合には、物納申請者の費用負担により地下埋設物を撤去することになっていました。しかし、改正後の物納制度では、地下埋設物等の存在が考えられるような物納申請地は、許可段階で『条件付き許可』とすることで、物納許可から5年以内に地下埋設物等が発見された場合は、(1)申請者の費用負担で地下埋設物を撤去する、(2)物納許可を取り消され、直ちに物納許可相当額と付帯税(利子税&延滞税)を納付する、の何れかを選択することになりました。
つまり、物納申請物件の更地は「条件付物納許可」となった後に、財務省の予算で地下埋設物の瑕疵がないことを確認し、物納許可条件が整っているのかを判断するようになりました。その調査内容は、対象地を1m×0.5m程の間隔で碁盤の目のように分割し、任意のポイントを数箇所選んで試掘調査を行います。そして、地下埋設物が発見された場合は地山に辿り着くまで掘り進め、例えば「A-7地点には、深度2~4mの範囲にコンクリート片等の産業廃棄物が埋設されている」、「D-15からE-17地点には、深度4~6mの範囲で家庭ゴミが見つかりました」といった具合に、掘り返した埋設物を写真に収めながら、敷地内のどの部分に、どの程度の埋設物が存在するのか、かなりの精度で把握するのです。
その試掘調査内容は、掘り返した地下埋設物の写真と埋設物の種類を特定した検査データ等と共に、敷地全体で何m3の埋設物が存在しているかを物納申請者に書面で提示され、ご丁寧に全て埋め戻して頂いた埋設物を自らの費用で撤去するには、どの程度の費用と期間を要するのかを見積る時間を考慮して、「物納許可を取り消して現金納付を行う」か「物納許可条件の整備を行う」かの選択を迫られることになります。
個人間の不動産売買で売主が瑕疵担保責任を負う期間としては、物件引き渡しから長くても2年程度しか設定しないと思います。しかし、条件付物納許可における対象期間は、収納許可から5年間と長い期間が設定されています。民間の不動産売買では、買主が瑕疵担保請求期間内に地下埋設物の試掘調査を行うか否かは、買主自らの判断に委ねられることになりますが、条件付物納許可の場合は対象地の試掘調査を必ず行うため、地下埋設物が発見された納税者には、条件付物納許可から半年~1年以内で試掘調査結果のデータを提示されます。過去に扱った事案の場合には、条件付き物納許可から半年程経過した時点で、試掘調査の報告書の提示を受けました。
全く別の見方をすると、納税手法の一つである物納制度も、条件付き物納許可から定価売り払いまでの一連の手続きについては、不動産業者の用地仕入れ~販売までのプロセスに置き換えることができます。
今回ご紹介した事例の不動産業者と国(財務省)の対応の違いは、様々なタイプの不動産業者が活動する民間の不動産取引と、物納制度が国(財務省)という唯一の存在を買主とすることも、その理由に挙げられるかと思います。しかし、旧制度下の更地物納対応と新制度での審査手順の変更等を鑑みると、国の予算で土壌汚染や地下埋設物の綿密な試掘調査を行うことが、物納制度の売主とも言える納税者に対して、瑕疵の回復(地下埋設物の撤去)や契約解除(現金納付への切り替え)の結論を急ぐことにも繋がっています。
つまり、不動産業者が仕入れた用地を住宅等の商品に加工して、早期に利益を計上することを目的としているのと同様に、条件付物納許可物件を早期に現金化して、税収を現実化するという目的に対して忠実に業務を遂行していると捉えることもできます。
今回のコラムでは、地方行政が施工した土地区画整理事業の造成宅地や学校敷地の造成用の土盛りした土から、土壌汚染物質や産業廃棄物の類が発見されるといった、古い時代とはいえ地方行政の信じ難い対応に始まり、売買契約における某不動産業者の瑕疵担保に対する曖昧な応対と、国(買主)と納税者(売主)間の物納許可(不動産売買)において、厳格な対応をする買主(国)を比較してご紹介させて頂きました。
なお、ここでご紹介した二人の地主様は、どちらも区画整理や土盛り工事から40~50年以上経過していることから、現在の行政長にその責任を求めてゆくことは困難と判断し、前者は買主の不動産業者と契約上の対応について対決することを選択し、後者は産業廃棄物等を自ら撤去して物納許可を確実にすることを選択されました。
次回は、借家人付き建物物納事例についてご紹介致します。
※本記事は2010年3月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
不動産コンサルタント。株式会社イデアルコンサルティング代表取締役。会計事務所向け不動産コンサルティング会社に11年勤務後、平成15年に独立。底地・借地の権利調整や物納条件整備業務を数多く手掛ける。共著に「こう対応する 物納・延納の制度改正 50問50答」。現在、会計事務所向け専門誌「実務経営ニュース」に連載中。
株式会社 イデアルコンサルティング
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