事例❶ 一部不動産の売却資金で、大切な資産を承継しやすい形に
姉のAさん(83歳)と妹のBさん(80歳)は未婚で、両親から引き継いだ自宅と、別の場所にある木造店舗2棟を共同所有しています。姉妹は兄の息子である甥のCさんをかわいがっており、資産を承継させたいと考えていました。仕事で忙しいCさんに賃貸経営を引き継ぐことに躊躇もありましたが、思い切って話を切り出したところ、Cさんは快く引き受けてくれました。これを受け、AさんとBさんは相続対策も考えCさんと養子縁組をし、認知症に備えてCさんと家族信託を組みました。
一方、2棟の木造店舗を査定した結果、収益性は高いものの、どちらも老朽化していて、両方をそのまま残すとCさんに迷惑をかけることがわかりました。2つの店舗が建つそれぞれの土地は一方が20年前に購入したもの、もう一方は先祖代々引き継いできたものです。
姉妹は先祖代々の土地をCさんに引き継いでもらうため、もう一方を土地ごと売却し、その資金で残す1棟を建て替えることにしました。不足分はローンを組み、賃料から返済しています。
また竣工後は、「叔母さんたちのもとで賃貸経営のノウハウを身につけたい」というCさんの申し入れを受け、姉妹はCさんを資産管理会社の役員に迎え入れました。こうして2人が大切に守ってきた先祖代々の土地は、Cさんにしっかりと引き継がれたのです。
事例❷ 夫が代々受け継いだ不動産を遺贈により夫の血族へ
去年夫を亡くしたDさん(68歳)は自宅で一人暮らしをしています。唯一の相続人である妹は遠くに住んでいて、何年も会っていません。近くには夫のいとこ一家が住んでおり、Eさんという娘がいます。Eさんは夫やDさんを慕ってくれ、親しくつき合ってきました。そこで、ひとりになったDさんは老後のお金の管理などをEさんに頼みたいと思い、Eさんの理解も得て任意後見契約を結びました。
もう1つ気になっているのは、夫が代々引き継いできた土地に建築家の設計で建てたこだわりの自宅です。疎遠になっている妹に引き継いだら、持て余して売却するかもしれません。それでは夫に申し訳なく、夫の血族に自宅を引き継ぎたいというのが願いです。その想いをEさんに話したところ、「ゆくゆくは私が引き継ぎたい」と言ってくれたのです。
Dさんは公正証書遺言を作成し、Eさんに自宅と引き継ぐうえで必要な納税用資金等以上の現金を遺贈をすることにしました。妹にはその旨を連絡し、納得してもらったほか、遺言書の付言事項にもEさんへの感謝の気持ちを記載しました。こうして、Dさんは夫の“想い”も自身の“想い”も叶える承継の準備を整えたのです。