事例❸ 不動産を売却し“想い”を実現。自分のためにも資産を活用
夫に先立たれ、子どもがいないGさん(83歳)は都内の一軒家で一人暮らしをしています。ここ数年は体調が優れず、いとこの子のHさんが親身になって世話をしてくれています。Gさんご夫妻は、2人とも親や兄弟を亡くし、相続人はつき合いのない甥だけです。
ご夫妻は一代で資産を築いた苦労人のため、苦労をしている若者の力になりたいとの想いが強く、夫とは「高齢になって誰かの世話になることがあればその人に資産の一部を譲り、残りは慈善団体に寄附しよう」と話していました。Gさんが資産の一部を譲りたいと考えたのは、親身に世話をしてくれるHさんです。
Gさんの資産は金融資産と自宅で、当初は夫との思い出の詰まった自宅をHさんに引き継いでほしいと思っていましたが、老朽化していることもあり、このまま引き継げばHさんに管理の手間がかかります。そこで、自分が亡くなった後に売却することを前提にご自宅と金融資産の一部をHさんに遺贈し、残りは貧しくても学べる機会を子どもたちに届けたいとの想いから公益の財団法人に遺贈寄附することにしました。
Gさんは公正証書遺言を作成し、自宅の売却を含む遺言執行者には司法書士を指定しました。一連の手続きを終え安心したGさんは、亡き夫と行こうと約束していた客船の旅を楽しみ、その後は夫と入居を希望していたシニアレジデンスに入居、現在も元気に暮らしています。
事例❹ 家族信託により不動産承継し、一部収益を医療団体に寄附
Iさんは(80歳)は子どもがおらず、妻を2年前に病気で亡くしました。相続人は兄と妹ですが、妹とは疎遠のため、兄一家に資産を残したいと思っています。資産は金融資産と自宅のほか、妻から引き継いだ賃貸アパートです。
妻は生前、「自分が患った病気の研究をしている医療団体に賃貸アパートを寄附したい」と望んでいたため、司法書士に依頼して交渉しましたが、不動産のままでの寄附は受け入れられないとの返答でした。そこで、Iさんは老朽化していたアパートを全面改修したうえで、兄の息子である甥のKさんを受託者、Iさんを受益者とし、自身の死後も契約が続く家族信託を結んでアパート経営を任せることにしました。
そして、自身の生存中は自分が家賃収入を受け取って医療団体に寄附し、自分が亡くなった後は甥が家賃収入を受け取り、管理・運営の費用を引いても余裕が生じた場合は団体に寄附するというスキームを組むことによって、妻の“想い”を次世代へとつないだのです。
また、介護が必要になった際には老人ホームの入居費用にあてるため、自宅は甥が売却できるという家族信託も結びました。さらに、それ以外の資産を甥に残す旨の公正証書遺言も作成しています。こうしてIさんは納得・満足のいく準備を整えることができたのです。
4つの事例をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか? 所有する資産や自身の“想い”などにより、一人ひとりにとってベストな解決法は異なります。専門家に相談しながら、ご自身も資産を受け取る方も納得・満足できる解決法を計画・実行してください。
◆ ◆ ◆
本サイトではこれからもオーナー様の資産経営に役立つさまざまな情報を発信してまいります。
なお、本コラムは三井不動産グループの資産経営情報誌「Let’s Plaza 2023.Spring号」に掲載した記事を修正、改題したものです。「Let’s Plaza」(年3回発行)では資産経営に関する旬な話題や詳細な事例などを豊富に掲載しておりますので、ぜひ最新号よりご購読ください。