コロナ禍で市場ニーズに変化「同面積でも部屋数を」
2020年初頭から始まった新型コロナウイルスの世界的な流行は、マスクの着用や外出の減少、テレワークの浸透、オンライン会議の普及など、私たちの暮らしに大きな変化をもたらしました。そうした変化は賃貸住宅市場にも表れています。
例えば、単身者にはこれまで1Rや1Kタイプの物件が人気でしたが、コロナ禍でテレワークが一気に広がったことで、そのような物件では起床から仕事、食事、睡眠までを一部屋で行うことになり、ONとOFFの区別がつけづらくなりました。このような背景から高まってきたのが、「部屋数を増やしたい」というニーズです。こうした傾向はDINKsやファミリー向けの賃貸住宅においても同様で、「夫婦それぞれにワークスペースを設けたい」「子どもの帰宅後も集中して働ける環境がほしい」といったニーズが増えています。
その結果、これまでは専有面積が小さい1Kタイプの部屋を可能な限り多く設けるのが収益性向上に有効だと考えられていましたが、市場ニーズが変化した今は1Kよりも部屋数が多い1DKタイプの成約数が増加傾向にあります。
また、コロナ禍は所得や雇用にも少なからず影響を与えましたが、賃料が安価な物件に人気が集まる傾向はあまり見られず、むしろ従来の賃料より高くなっても部屋数が多い物件に転居するケースが多々みられます。オーナー様の中には、専有面積は変えずに1Kから1DKへと部屋数を増やしたところ、賃料が6~8%上がったという方もいらっしゃいます。
多様な間取りを設けた複合型でリスク分散を図る
では、市場ニーズに合わせ、同じ専有面積でも1Kではなく1DKと部屋数を多くするのが今後も得策かというと必ずしもそうとは言えません。在宅勤務を継続する企業と、出社勤務に切り替える企業とに分かれていく潮流があるなか、現在の市場ニーズが1DKにあるからといって、1棟すべてを1DKにするのではなく、1K、1DK、2LDKなど間取りのバリエーションを増やすことでリスク分散を図るのがお勧めです。
例えば、単身者を想定した1Kが50%、DINKsを想定した1DKが30%、ファミリーを想定した2LDKが20%といった複合型にするプランです。もちろん地域の特性や物件の立地によって、お勧めの配分比率や間取りのタイプは異なってきますので、プランを立てる際はプロに相談しましょう。
また、部屋数を増やすまではいかなくとも、住宅内にワークスペースを確保したいという要望も多くなっています。図表1は、ウォークインクローゼットの一部を転用し、デスクと書棚を配したワークスペースを確保した事例です。このように、収納の一部を転用する、壁の窪みを利用するなどして、ワークスペースをうまく設ける工夫が重要となります。
図表1 住宅内にワークスペースを設置したプランの一例
高速通信や宅配ボックスなど求められる設備にも変化
コロナ禍で、設備面においてもニーズの変化がみられます。その代表例が、インターネット環境の充実です。テレワークやオンライン会議の広がりにより、Wi-Fiや高速通信など職場に近い環境でスムーズに業務を行いたいというニーズが増えたのです。そのため、住宅内のどこにいても使え、かつ通信速度も十分に確保したWi-Fi環境を無料で提供することは、これからの賃貸住宅の重要な推奨設備といえます。
また、玄関や廊下にコートや上着をかけるフックを設置するのもお勧めです。ほんの些細な工夫ですが、ウイルスや花粉などを室内に持ち込まないための対策として喜ばれています。
スペースに余裕がある場合は、宅配ボックスの設置を検討してみるのもよいでしょう。コロナ禍でネットショッピングが格段に増えたこともあり、外出中や仕事中でも荷物を受け取ることができる宅配ボックスは非常にニーズが高い設備です。同様に、各住戸の玄関付近に置き配用のボックスを設置するプランも人気が高まっています。
このようにコロナ禍を経て賃貸住宅に求められる機能や設備などに変化が表れてきました。これから賃貸住宅市場はどう変化するのか、どのようなプランが市場に評価されるのか――。市場に大きな変化がある今だからこそ、不動産オーナーの皆様には信頼できるプロの力をぜひ活用し、ご検討いただきたいと思います。
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次回は、2つ目のキーワードである「脱炭素」について、賃貸住宅市場のトレンドや有効と考えられる資産経営戦略などをご紹介します。お楽しみに!
(第2回に続く)