資産活用

空室だらけの築30年の老朽化アパートを再生する3つの方法

アパート経営をしていれば、いずれは直面することになるはずの築30年以上の老朽化アパートの問題について、その具体的な対策案を、今回と次回の2回に分けて探ってみたいと思います。まずは、有効な資産として再生するための3つの方法について解説します。

アパートなどの賃貸経営を人生に例えると、築15年目までは青年期、築16年~30年までは壮年期、築31年以上は老年期にあたると考えられます。青年期には、周辺地域の他の物件に比べて外観や内装、設備も新しく、立地と家賃設定さえ間違わなければ、空室率は比較的低く、修繕費用もあまりかかりません。そのため、管理さえきちんとしていれば、安定的な賃貸経営が期待できます。

築16年以上の壮年期には、そろそろ、内外装や防水、設備などいろいろな部分に老朽化や陳腐化が生じます。このため、そのまま手を入れないでおくと、周辺地域の築年数の新しい物件に比べて、賃貸物件としての競争力が低下していきます。経営的にも、建物附属設備の耐用年数が経過して減価償却費が激減するため、所得税などが急増し、手元に残る剰余金が激減します。こうした状況を打開するためには、外装や防水、内装、設備などを改修し、賃貸物件としての魅力を高めることが必要になります。建物管理や入居者管理の善し悪しで賃貸物件としての競争力の差がつきやすくなる時期ですから、場合によっては、管理のあり方を見直すことが有効なこともあるでしょう。

築31年以上の老年期には、賃貸物件としての個別格差が顕著に現れます。空室だらけの老朽化したぼろ物件がある一方で、築年数の新しい物件とさほど変わらない競争力を維持している物件があります。この違いは、壮年期における改修投資や管理のあり方から生まれるのですが、ぼろ物件になっている場合にも、必ず、再生の方法はあるはずです。具体的には、建替え、大規模リニューアル、建物解体後土地売却の3つの方法です。

まず一つ目は、建替えという選択肢です。借入金の返済も完了しているはずですので、新たな借入れを起こし、建替えを行うことは、もちろん有力な選択肢です。しかしながら、かつての右肩上がりの時代と違って、ストック時代における新築投資は、より慎重である必要があります。最寄り駅からの距離等の利便性、立地性を踏まえ、将来的な需要に不安がないエリアで行うべきでしょう。具体的には、新築物件の賃料水準が月坪当たり1万円を超えるエリアであれば、まずは大丈夫です。特に、建替えによって、建物の賃貸面積が増加する場合には、大きな効果を期待できる場合もあります。ただし、大規模リニューアルとの投資採算性の比較は必ず行うべきでしょう。

二つ目は、大規模リニューアルです。築30年以上のぼろアパートの場合には、中途半端な投資では効果が薄く、ある意味で、まったく建物のイメージを一新するようなリニューアル投資が効果的です。投資額としては、新築投資の2分の1程度を一つの目安として考えれば良いでしょう。こうしたリニューアル投資では、新築時のローンの返済も完了しているはずですので、しっかりとした計画であれば、金融機関の融資もつくはずです。最近は、築年数の古い賃貸物件に興味を持つ若者も増えており、やり方次第によっては、新築物件と変わらない家賃が取れることもあります。ただし、大規模リニューアルの場合にも、立地の選択は重要です。将来需要の期待できないエリアでの再投資はリスクが大きいからです。

三つ目は、既存建物を解体した後に、更地で土地を売却するという選択肢です。もちろん、既存建物付きで土地を売却するという選択肢もあり得ますが、収益還元法で評価されるときわめて低い売値にならざるを得ません。既存の入居者の立ち退きという大きな障害はありますが、更地後の売却には、それを乗り越えるだけの価格メリットが見込めます。この選択肢が有効なケースとしては、利便性や立地性において、将来の賃貸経営に不安が残る場合を挙げることができます。前回のコラムでもご紹介しましたが、本格的なストック時代を迎え、大都市の郊外部や地方都市、最寄り駅から距離のある住宅地などにおける賃貸経営は、将来の需要減退という大きなリスクを抱えています。こうした立地の場合、賃貸経営をやめて、売れるときに土地を売却し、その資金で新たな投資対象に資産を組み替えることは、きわめて有力な選択肢なのです。

さて、建物解体後土地売却のところでも述べましたが、既存の入居者の立ち退きは、実は、上記の3つの選択肢に共通する大きな課題です。建替えや建物解体後土地売却の場合はもとより、大規模リニューアルについても、専有部分の内装や設備の一新には、既存の入居者の退去が欠かせないからです、しかしながら、大規模リニューアルの場合には、計画的に進めれば、他の選択肢よりは、入居者の理解を得やすい方法があります。具体的には、専有部分のリニューアルを、空室から開始し、リニューアル後の家賃の支払いに納得された入居者には、アパート内のリニューアルの完了した部屋に順次移ってもらうという方法です。いわゆる「居ながら改修」という改修手法ですが、住み慣れた場所で内装設備の一新された部屋に住み続けることができるため、入居者に家賃負担力がある場合には、比較的納得して頂きやすい方法です。

次回は、今回ご紹介した建替えと大規模リニューアルの2つの選択肢について、具体的な事例をもとに、その採算性を比較検証してみたいと思います。

※本記事は2010年3月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。

株式会社アークブレイン

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