資産活用

借地借家法改正で使い勝手が改善された「事業用借地権」

平成19年の借地借家法の改正により、事業用借地権の存続期間が「10年以上50年未満」に改められ、土地利用の多様化に対応、税法上の問題点も解消され、使い勝手が改善されました。概要を解説します。

一段と使いやすくなった事業用借地権

「事業用借地権」という制度をご存じでしょうか。前回のコラムで取り上げた「定期借地権」の一種ですが、これは、事業用(住宅等の居住用以外の用途)だけに利用できる定期借地権です。この、事業用借地権は、ガソリンスタンドやロードサイドショップなどで幅広く使われており、土地所有者が店舗などを建設してこれを賃貸する建物賃貸方式に比べると、土地所有者にとって、建物投資や借入金返済の事業リスクを負わずに地代収入を得ることができるというメリットを持っています。年間の地代収入の額も、土地代の3~6%程度と比較的高く、事業リスクの低い割には、収益性の高い事業と言えます。

しかしながら、この事業用借地権は、存続期間(借地期間)が10年以上20年以下に限定されており、このことが、従来から問題点とされていました。というのは、事業用借地権の場合、借地人は、借地期間の満了時に、建物を取り壊して更地にして土地を返還しなければならないという決まりになっています。そうすると、事業用借地権を利用する借地人(ガソリンスタンドやロードサイドショップなどを経営する企業等)は、どんなに長くても20年後には、建物を取り壊して更地にして土地を土地所有者に返さなければなりません。ところが、建物の税法上の償却期間は、多くの場合、20年を超える長い期間に設定されていますので、建物を取り壊すときに、会計上の除却損を計上しなければならず、土地を借りる企業等にとっては、大きな障害となっていました。また、定期借地権全体でみると、事業用借地権以外の定期借地権としては、一般定期借地権と建物譲渡特約付借地権の2種類があり、前者の存続期間は50年以上、後者の借地期間は30年以上であり、20年超30年未満の存続期間の定期借地権の制度が用意されていないという問題もありました。ところが、このたび、借地借家法が改正され、平成20年の1月1日以降、事業用借地権の存続期間が、「10年以上50年未満」に改められ、こうした問題点が解消されました。下図は、その様子を図解したものです。

この事業用借地権の存続期間が拡大された結果、次のような効果が期待されます。

1.税法上の償却期間と定期借地権の存続期間の間のミスマッチが解消され、借地人(企業等)にとって、利用しやすい制度になります。

2.事業用の定期借地として、従来の20年超50年未満という空白期間が埋まることで、貸主である土地所有者、借主である企業の双方にとって、ニーズに応じた借地期間の設定が可能となり、土地所有者の立場からも、土地を貸しやすい制度になります。

3.これまでは、長くても20年後には取り壊す前提であったため、鉄筋コンクリート造などの堅固な建物や中層の建物を建設しにくかったという問題点が解消され、採算的にも、長期的に建設投資を回収できるため、倉庫や事務所目的などの事業でも利用しやすい制度になります。

4.建物の存続期間が長期化されるため、事業用借地権を用いても、長期的なまちづくりや地域の活性化に役立つような土地活用が可能となります。

5.「前払賃料」の仕組みと組み合わせると、事業用の借地権として、貸主と借主のニーズに応じた、自由度の高い契約が可能となります。

このように、事業用借地権の存続期間の拡大は、土地所有者と、借地人となる企業の双方に大きなメリットを与えるものと期待されており、幹線道路沿いに土地をお持ちになっている方など、土地活用の有力な手段として、是非一度、ご検討されてみてはいかがでしょうか。

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表 契約期間の更新のある通常の借地権と、更新のない定期借地権の概要(参考)
  借地権 定期借地権
一般定期借地権 事業用定期借地権 建物譲渡特約付借地権
残存期間 当初は30年以上 50年以上 10年以上50年未満 30年以上
借地の利用目的 制限なし 制限なし 事業用 制限なし
契約の形式 制限なし 公正証書 公正証書 事実上書面
特徴 貸主に正当事由がない限り更新を拒絶できない 期間満了時に、建物を取り壊し、更地にて土地所有者に土地を返還する。契約の更新、建物の築造による残存期間の延長がなく、建物買取請求もできない 期間満了時に、建物を取り壊し、更地にて土地所有者に土地を返還する。契約の更新、建物の築造による残存期間の延長がなく、建物買取請求もできない 期間満了時に、土地所有者は建物を買取ることで借地関係が消滅する
根拠条文 借地借家法3条 借地借家法22条 借地借家法23条 借地借家法24条

※本記事は2008年に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。

株式会社アークブレイン

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