建築前に確認しよう、消費税の申告方法
賃貸用の建物を建築する場合、忘れてはならないのが消費税の申告方法です。手続き次第では建築代金に係る多額の消費税が還付される可能性もあるからです。
但し、この手続きには厳格な期限が設定されています。後の祭りにならないよう、事前に入念な準備をしておくことが大切です。
1.消費税の原則的な計算方法
消費税は原則的にはお客さまからの売上げで預かった消費税(『課税売上げ』と言う)と仕入、諸経費等の支払いで支出した消費税(『課税仕入れ』と言う)との差額を基に計算します。
後述しますが、基準期間と呼ばれる期間の課税売上げが1,000万円超の場合に申告義務が生じます。売上げに係る消費税額の方が多ければその差額を納税。逆に支出した消費税の方が多額であれば、還付を受けることになる仕組みです。
2.建物の用途による相違
消費税は居住用の家賃については課税の対象としていません。
従って、建築した建物がいわゆる賃貸マンションの場合には、もともと家賃について消費税が課税されていないため、マンション建設に係る消費税は控除の対象にならないのです。しかし、店舗やオフィスを建築する場合、これらの賃料は消費税の対象となっているため、課税売上げに該当します。そのため、建物に係る消費税が控除できることになる訳です。
3.不動産賃貸業と簡易課税
さて、基準期間の課税売上げが5,000万円以下である場合、便利な特例が用意されています。課税仕入れの厳密な計算をせず、課税売上げに一定率を乗じた金額を課税仕入れとみなす特例です。この方法を簡易課税と言いますが、一定の率は、業種によって異なります。不動産賃貸業については50%とされているため、売上げに係る消費税の半額を納税すれば済む勘定になります。
この特例を選択すれば、計算の手間が省けます。さらに不動産賃貸業については、実際に支出する消費税額は課税売上げの50%以下であることが多いのです。
つまり、簡易課税は原則的な計算方法より、納税額は少ない負担で済むことにもなるのです。
但し、建物を建築した年はこの一般論があてはまりません。建築に際し多額の消費税を負担しているからです。
4.原則課税と簡易課税の比較
それではここで、原則課税と簡易課税の相違を建築年度を例に具体的な計算で検証してみましょう。
定年を機に遊休地の有効活用を考え、建築価格2億円、これに係る消費税が1,000万円の建物を建築した場合です。その他に諸経費に係る消費税が140万円あったとします。一方、家賃収入は総てが店舗のため消費税の課税対象で、年額の賃料が1,200万円。これに係る消費税が60万円、という想定です。便宜上、初年度も1月1日から12月31日までの計算を行うものとします。
まず原則課税では、課税売上げの消費税額は賃料の60万円。課税仕入れに係る消費税額は建物の1,000万円とその他の140万円で合計1,140万円となります。従って、差引き1,080万円(60万円-1,140万円)還付される計算です。
これに対し簡易課税では、課税売上げの消費税額は原則課税と同様で賃料の60万円。課税仕入れはこれの50%相当額とされるため30万円、還付どころか差引き30万円の納税になってしまうのです。
5.当初の2年間は申告不要
ここで注意すべきは消費税独特の規定である“基準期間”という考え方です。個人の場合、消費税の計算期間は所得税と同様の暦年とされています。消費税の納税義務の有無は基準期間で判定しますが、その基準期間とは、前々年の期間を指します。つまり、新たに課税事業となる賃貸事業をしようとする場合、建築した年の前々年、つまり2年前は課税売上げがないため、申告する必要がないことになってしまいます。それでは原則課税で還付を受けたくてもできません。そこで、新築した年度は本来申告義務がなくても、敢えて『課税事業者選択届書』と言う書類を提出し、自ら申告義務を作ることが必要なのです。建物を建築した年の年末までに提出することがその条件ですので、事前の準備が必要です。但し、還付を受けるためにこの手続きをした場合、2年間は継続して申告しなければなりません。従って、次年度の納税と併せ、2年間の総トータルの税額で判断することになります。
6.簡易課税を選択していると……
これから初めて賃貸用の建物を建築する場合はまだしも、注意すべきは従来から消費税の申告を簡易課税でなさっている方です。通常の不動産賃貸業では簡易課税が多分圧倒的に有利なことが多いでしょうから、そのまま放置していると、新築した年も簡易課税で悲惨な結末に……。
建築する年の前年末までに簡易課税を原則課税に変更する手続きを、決してお忘れにならないようにくれぐれもご注意下さい。
建築前に確認しよう、消費税の申告方法
賃貸用の建物を建築する場合、忘れてはならないのが消費税の申告方法です。手続き次第では建築代金に係る多額の消費税が還付される可能性もあるからです。
但し、この手続きには厳格な期限が設定されています。後の祭りにならないよう、事前に入念な準備をしておくことが大切です。
1.消費税の原則的な計算方法
消費税は原則的にはお客さまからの売上げで預かった消費税(『課税売上げ』と言う)と仕入、諸経費等の支払いで支出した消費税(『課税仕入れ』と言う)との差額を基に計算します。
後述しますが、基準期間と呼ばれる期間の課税売上げが1,000万円超の場合に申告義務が生じます。売上げに係る消費税額の方が多ければその差額を納税。逆に支出した消費税の方が多額であれば、還付を受けることになる仕組みです。
3.不動産賃貸業と簡易課税
さて、基準期間の課税売上げが5,000万円以下である場合、便利な特例が用意されています。課税仕入れの厳密な計算をせず、課税売上げに一定率を乗じた金額を課税仕入れとみなす特例です。この方法を簡易課税と言いますが、一定の率は、業種によって異なります。不動産賃貸業については50%とされているため、売上げに係る消費税の半額を納税すれば済む勘定になります。
この特例を選択すれば、計算の手間が省けます。さらに不動産賃貸業については、実際に支出する消費税額は課税売上げの50%以下であることが多いのです。
つまり、簡易課税は原則的な計算方法より、納税額は少ない負担で済むことにもなるのです。
但し、建物を建築した年はこの一般論があてはまりません。建築に際し多額の消費税を負担しているからです。
※本記事は2008年に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。
税理士法人ATO財産相談室
阿藤芳明 コラム一覧