Q.お客さまからのご質問
民法の相続法が改正され、遺留分制度の内容が従来とは変更されたと聞きました。遺留分の制度については、何が変わったのでしょうか。また、それは、今後の相続にどのような影響を与えるものでしょうか。
A. お答え
遺留分とは何か
遺留分とは、「一定の相続人のために法律上遺留されるべき相続財産の一定部分」をいい、遺言や生前贈与でも奪うことのできない相続人の最低限の取得分を意味します。例えば、被相続人甲に2人の子AとBがおり、遺言でAのみに全財産を相続させるという遺言をした場合、Aが甲の全財産を取得しBの取得分はゼロのように見えますが、Bには最低限の取得分として遺留分が認められます。遺留分の割合は原則として相続財産の2分の1(直系尊属のみが相続人の場合は3分の1)ですので、Bには自己の法定相続分1/2の半分の1/4の割合で全ての相続財産に遺留分が認められることになります。
遺留分の権利は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間、相続開始の時から10年間のうち、早く到来した時期に時効により消滅します。具体的にはBの遺留分の権利は、Bが甲の相続開始後10年以内に甲の死亡と遺言の内容を知った時から1年で時効消滅することになります。
なお、「一定の相続人」とあるように、相続人のうち、被相続人の兄弟姉妹には遺留分は認められていませんのでご注意ください。
改正前民法の遺留分減殺請求権
改正前民法では、遺留分に基づく権利としては、BにはAに対する「遺留分減殺請求権」が認められ、遺留分減殺請求権の行使により、甲の全財産をAに移転するという遺言の効力が4分の1の割合で失効することになります。従って、BがAに対し遺留分減殺請求をおこなうと、甲の財産は、Aが3/4、Bが1/4の割合で共有する状態になっていました。
改正民法による遺留分侵害額請求権
改正民法では、遺留分に基づく権利を、遺留分減殺請求権ではなく、遺留分侵害額請求権へと変更しました。遺留分侵害額請求とは、遺留分の権利を行使しても、遺言による財産移転の効果(上記の例でいえば全財産をAが取得)は失効せず、Bが侵害された遺留分に相当する金銭(遺留分侵害額)をAに対して請求できる権利を意味します。Bは全財産の4分の1の遺留分を有していますから、遺留分侵害額請求権を行使することにより、Aに対し、遺留分侵害額の金銭請求のみができることになります。
遺留分侵害額請求制度のもとでの相続対策の変化
遺留分減殺の制度がなくなったことにより、遺言はその効力を否定されることがなくなりますので、Aが全遺産を取得し、AとBが遺産を共有する事態はなくなります。その代わりに、遺留分の権利が金銭請求権になりますのでAはBから具体的な金額を支払うよう請求されれば、その翌日から遅延損害金を支払わなければなりません。また、改正前民法のもとでは、Aが相続財産である物を遺留分相当額の範囲で交付することで解決ができましたが、改正民法の遺留分侵害額請求制度のもとでは、金銭の代わりに相続財産である物を交付すると、税務上は、当該物を売却して金銭を支払ったものとみなされ譲渡所得課税が発生します。
従って、Bの遺留分を侵害する遺言を作成する場合には、Aに遺留分侵害額を支払えるだけの配慮をしておくことが必要です。例えば、被相続人を契約者および被保険者とし、受取人をAとする生命保険契約を締結しておくこともひとつの方法です。
※本記事は2020年6月号に掲載されたもので、2022年1月時点の法令等に則って改訂しています。
東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。
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