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民法改正が賃貸借に与える影響 ~その3 賃貸目的物の一部使用収益不能と賃料の当然減額~民法改正が賃貸借に与える影響 ~その3 賃貸目的物の一部使用収益不能と賃料の当然減額~

レッツプラザ2019年1月号/執筆者:江口 正夫

Q.お客さまからのご質問 Q.お客さまからのご質問
民法が改正され、2020年4月1日から実施されると聞いたのですが、昨今では地震その他の自然災害が多く発生しており、賃貸物の一部滅失や一部使用不能などの被害も出ています。これに関して民法のルールは何か変わるのでしょうか。変わるとすれば、どのように対応すべきかご教示ください。

A.お答え

① 賃貸物の一部滅失その他使用収益不能の場合のルール変更

改正民法では、賃貸物の一部が滅失したり、滅失しないまでもその一部の使用収益が不能となった場合は、賃料が当然に減額されるというルールに変更されます。この点は、現行民法の定めがどのようになっているのか、改正民法はどこが異なるのかを比較しないとわかりにくいと思います。現行民法は、賃貸物の一部滅失の場合に限って、賃借人は賃料減額請求ができると定めるのみで、賃貸物の一部滅失については何も規定されていません。

② 現行民法における賃借物の一部滅失の場合のルールと改正民法の相違点

(1)まずひとつ目の相違点は、現行民法では賃貸物の一部が滅失した場合には賃借人は賃料の減額請求ができると定められているのに、改正民法では「賃料は当然減額である」という定めに変わったことです。賃料が当然に減額されるという意味は、一部が滅失あるいは使用収益が不能となった部分については賃料は発生しないという意味です。このことは、現行民法では月額10万円の賃料を収受している建物が地震その他の災害により2分の1が滅失してしまった場合、現行民法では滅失後も月額賃料は10万円であり、賃借人から賃料減額請求がなされた場合に初めて賃料が5万円に減額されることになります。これに対し、改正民法では当然減額ですから、2分の1が滅失してしまった場合には賃借人からの減額請求の有無にかかわらず翌日からの賃料は5万円となります。

(2)2つめの相違点は、現行民法では賃貸物の一部滅失の場合しか定められていないのに対し、改正民法では賃貸物の一部が使用収益不能となった場合においても賃料は当然減額であると定められたところです。これについては、賃貸物が滅失していないにもかかわらず、その一部が使用収益不能とは、どのような場合をいうのかということが問題になります。例えば、夏の猛暑日に賃貸物に備え付けのエアコンが故障し、室内が蒸し風呂状態になって執務ができないという場合は一部の使用収益不能に該当するのか、賃貸住宅において風呂釜が壊れて風呂に入れなくなった場合は一部の使用収益不能に該当するのか、電気系統の故障により停電した場合は一部の使用収益不能に該当するのか等々が問題になります。この場合に、賃料は当然減額とされ、使用収益が不能となった部分については賃料は発生しないものとされるのですが、エアコンが故障すると賃料はいくらが不発生となるのか、風呂釜が壊れた場合や電気系統の故障による停電の場合は賃料はいくらが不発生となるのか、は容易に判明しませんし、賃貸人と賃借人との間でトラブルを生じる恐れがあります。

③ 改正民法のもとでのトラブル防止対策

そこで、改正民法のもとでのこのような問題に対するトラブル対策としては、滅失以外の賃貸物の一部使用収益不能の事由を列挙し、それぞれ賃料をいくら減額するかをあらかじめ賃貸借契約書に記載し合意しておくことが考えられます。改正民法のもとでは契約書の重要性が益々大きくなると考える必要があると思われます。

※本記事は2019年1月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

江口 正夫
海谷・江口・池田法律事務所 弁護士 江口 正夫
東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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