賃貸用不動産を買うときに重要なポイントは「最終的に投資額に見合ったリターンが得られるか」ということです。リターンには2種類あり、 ①所有期間の賃料収益、 ②売却時点の売却益(損)です。投資的に言うと①インカムゲイン、 ②キャピタルゲイン(ロス)と言われているものです。
賃料収入について
賃貸用不動産を購入する際の判断材料のひとつとして「賃貸状況一覧表(レントロール)」があります。賃貸借契約や各賃貸部分の賃料等を一覧にしたもので、「賃借人名」「月額賃料・共益費」「当初契約日」「敷金(保証金)の預かり状況」などがひと目でわかります。ここで注意したいのは、これはあくまで現在の状況を切り取ったものでしかなく、過去の経緯や将来の予想が書いてあるわけではないということです。
例えば「現況満室・表面利回り9%」の物件があったとして、レントロールを見てもその通りの状況だとします。これをそのまま鵜呑みにして購入しても良いものでしょうか?
この物件のレントロールをよく見てみると同じ面積・同条件の部屋なのに長く借りている人は月額家賃12万(他共益費1万円)、最近入居した人は月額家賃9万円(共益費無し)となっていました。次に空室が出たらいくらで貸せると思いますか?また敷金ゼロで何とか満室にしていることもありますし、フリーレント3か月(3か月間家賃ゼロ)等で募集していることもありえます。ただしフリーレントや滞納の状況は管理会社が月次で報告している「入出金報告書」を過去に遡って確認しなければわかりません。
支出について
賃貸用不動産を所有する際には必ず管理や修繕に必要な経費がかかるため、ここにも注意が必要です。固定資産税等の年税額、管理会社に支払う管理委託費、オーナーが支払う水道光熱費や通信費を確認するほかに、過去の修繕履歴や設備の更新記録があれば可能なかぎり確認しましょう。屋上設備や昇降機・ボイラー・変電関係設備など購入した後に多額の修繕コストや設備の更新費用がかかることもあるので注意が必要です。
キャピタルロスについて
賃貸用不動産の価値を判断する際に、一般的には収益還元法(いくらで買えばその物件に見合った収益を得られるかを求める方法)という方法を採用しますが、金融機関が融資をする際に担保価値を評価する場合には積算法を採用することがあります。これは土地と建物を別々に評価し、土地は比較事例法、建物は原価法で評価するものです。
利回りが良くても建物が古かったり、土地の形状や立地等に少しでも問題があれば減価をされ、低い評価をされてしまいます。また、建物が違反建築物であったり、無許可で増改築や用途変更をされているような場合には、そもそも融資不適格という判断をされてしまうこともあります。このように金融機関からの借入れに際して不利な条件の物件は市場価値も下がってしまいます。
市場価値が大きく下がる物件を購入した場合にどのようなことが起こるでしょうか? 表面的な理屈でいうと、5,000万円のアパートをネット6%で10年運用して累計3,000万円の収入を得ても、10年後に3,000万円でしか売れなければ2,000万円の売却損となり、結果的には1,000万円のプラスにしかならず2%/年でしか運用できなかったことになってしまうのです。
賃貸用不動産を購入する際に、5年後10年後まで資産価値がある程度維持できる物件なのかどうかについても検討材料にいれておくべきでしょう。
以上、文字数の関係で簡単ではありますが、賃貸用不動産を購入する際の注意点を説明しました。このほか、
(1)管理会社の管理内容や管理委託料が適正かどうか。
(2)テナント属性(使用状況、支払い状況、人的属性等)に起因するリスク。
(3)自然災害(活断層、過去の浸水履歴等)のリスク。
等にも注意が必要です。
冒頭でも申しあげましたが、これらの注意点は収益用不動産を所有されているオーナーにとっても決して無関係ではありません。ご自身が所有する収益用不動産について資産価値を維持するためにも今回の内容について一度考えてみてください。そのうえで必要があれば、総合的に判断ができるレッツのコンサルタントにご相談いただくことをお勧めします。
※本記事は2019年10月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
関西支店 ソリューション営業部長
三井不動産リアルティ株式会社
神宮 保彦