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親族間での不動産売買、その価格はどのように決めればよいのか?

情報誌レッツプラザ2022年2月号より引用

不動産経営において、親族間で不動産売買を行うことはよくあります。所有状況の見直しなど、その理由はさまざまでしょう。このような場合、第三者へ売却するのとは異なり、いわゆる実勢価格がありません。税務上のことを考えた場合、売買価格はどのように決定するのがよいのか解説します。

参考にすべきは相続税評価額

適切な土地の時価という観点からいえば、不動産鑑定価格を用いることも正しい方法です。ただし、不動産鑑定士に依頼をすれば数十万円の費用がかかることになります。この費用は通常は評価1件ごとに発生しますので、複数の取引であればそれだけ鑑定費用も倍増します。現実には、個人間での売買は税務署から指摘されない価格で、かつ、できるだけ手間や費用をかけずに決定したいというケースが多いことでしょう。

結論から先に申し上げると、そのような場合には相続税評価額を参考にして決定すればよいと言えます。
所得税の切り口から考えれば、あるべき取引価格はあくまで客観的交換価値である時価になります。したがって、それは相続税の路線価評価額ではなく、どちらかというと公示価格相当となるでしょう。

ところが、今回は個人間売買を前提としています。この個人間売買においては、著しく低い価額による取引に該当しない限りは税務上の問題が生じないことになっているのです。そして、この著しく低い価額の判断ですが、実務上では相続税評価額以上であれば該当しないと取り扱われています。前述したとおり、相続税の路線価評価額は土地の形状や状況に応じて補正を行って計算したその土地の価格です。

しかも、このルールは税務署自らが定めたものなのですから指摘されることはありません。また、この相続税の路線価評価額を80%で割り戻した価格を、税務署は公示価格相当額として判断しています。
したがって、取引価格を決めるのであれば相続税評価額を最低ラインとして、「相続税評価額以上~公示価格相当額(相続税評価額÷80%)」の範囲が目安になります(図2)。

ちなみに、法人が絡む取引の場合にはこのような考え方はありません。あくまで時価相当となりますので、最低でも公示価格相当額が指標となります。なお、建物の取引価格の場合には別の考え方が出てきます。通常は、建物の帳簿価額相当額や固定資産税評価額を参考に決めることになるでしょう。

ここまで個人間売買について説明をしてきましたが、共有不動産の整理などを行うときも同じ考え方になります。2人の共有となっている土地を共有物分割によって分けようとするのであれば、相続税評価額ベースで損得が生じないようにすれば税務上の問題は生じません。また、離れている場所にある土地の整理を考えるのであれば、交換取引を行うことになるでしょう。このときも同じように、相続税評価額ベースで等価の交換であれば、どちらかに利益を移転したのではと税務署から疑われることはないのです。

実行にあたってのポイント

できるだけ手間や費用をかけずに個人間売買の取引価格を決めたい場合は、まずは相続税評価額を出してみることから始めましょう。目安を知りたいのであれば路線価に地積を乗じた価格でよいでしょうが、実行時には土地の個別状況に応じて補正を行った相続税評価額を算定する必要があります。

また、不動産の所有権に変動が生じるのであれば、登録免許税や不動産取得税が課税されます。土地の場合にはこれらの諸費用が多額となるケースがありますので、想定外の税金が生じることにならないようにあらかじめ試算をしておくのがよいでしょう。

税理士。1978年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。2005年、税理士法人エーティーオー財産相談室入社。資産税を中心とする税務申告、不動産税務コンサルティング業務などを提供。2021年、同法人代表社員に就任し、現在に至る。著書に『土地の有効活用と相続・承継対策』(税務研究会出版局)など。

税理士法人エーティーオー 財産相談室 代表社員

高木 康裕

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