土地資産家のための税務講座

コロナ禍に対する税務の対応

世界中が新型コロナの感染対策に追われる中、国内では中小企業の倒産が頻発し、その影響はテナントのオーナーである地主、家主の方にも及んできています。この危機に対応するため、税務の世界でも国税の申告期限を延長したり、納税を猶予するなど、異例中の異例となる動きが見られます。どのように対応すべきかを一緒に確認していきましょう。

猶予と免除

今回のコロナ禍に際し、国も自治体も課税当局はこの非常事態に対応すべく、納税の負担軽減策を打ち出しています。

その納税の負担を軽減する方法として、大きく猶予と免除という2つの方法があります。わかりやすいのは免除で、文字通り納税義務がなくなることです。一定の手続きが必要な場合もありますが、納税をする方にとってはこれ以上負担が軽減される方法はないわけで、ありがたい制度ではあります。

もうひとつは猶予です。これは決して納税義務がなくなるわけではありません。実際の納税の期限が先送りされることを意味します。その意味では実質的な負担は同じです。

しかし、売上の減少や手元資金がひっ迫している状況においては、期日が延期されることも、それなりの負担軽減にはなるでしょう。

それでは地主、家主の皆さんに直接関連のある税目ごとに、その概要を見ていきましょう。

地方税の徴収の猶予制度の特例

まずは固定資産税に代表される地方税全般のお話から。今回のコロナ禍で地方税について、納税をする方の申請により、都道府県や市町村ごとの判断でその徴収を1年間猶予できることになっています。もちろん、納税をする方の負担を考えての措置ですが、納税期限が1年間延びることになります。

自治体により若干の相違はあるものの、東京都を例にとってお話しすると、令和2年2月以降の収入に相当の減少があり、納税することが困難になった方がその対象です。しかも、無担保かつ延滞金なし、という特別な配慮までなされています。

具体的には次のすべての条件を満たすことが必要で、①新型コロナウイルス感染症の影響により、令和2年2月以降の任意の期間(1か月以上)において、事業等に係る収入が前年同期に比べておおむね20%以上減少している場合、②一時に納付し、または納入をおこなうことが困難な場合、の2つです。例外はありますが、令和2年2月1日から令和3年1月31日までに納期限が到来するすべての都税がその対象です。

申請をしようとする場合には、徴収猶予申請書に、猶予を受けようとする金額が100万円未満であれば財産収支状況書を、100万円以上の場合は財産目録と収支の明細書を。さらに売上帳や出納帳等で収入減等の事実を証する書類を添付すればよいことになっています。

固定資産税の軽減措置

固定資産税というと、土地や建物について課税されるもの、と思っている方が大半だろうと思います。確かに土地や建物の所有者に課税されるのですが、実はそれだけではありません。償却資産と言って、土地や建物以外でも事業を営むために使用している、減価償却の対象となるものも含みます。これに対する税金を償却資産税という言い方もあるようですが、税法的にはあくまでも固定資産税のひとつなのです。

その固定資産税ですが、基本的には所得税や法人税と異なり、賃貸事業その他の事業の業績が悪化して赤字になっても課税されることになっています。所有しているだけで課税される性格のものだからです。そのため、土地・建物や設備を多く保有する事業では、その金額も大きなものになってしまいます。

そこで、今回のコロナ禍で事業収入が大幅に減少している中小企業者、小規模事業者の税負担を軽減するため、以下のような措置がとられています。

ただし、ここで注意すべきは、来年度つまり令和3年度の固定資産税、都市計画税が軽減されるものであって、今年度(令和2年度)の税負担の軽減措置ではありません。

(1)適用対象者

個人、法人を問わず、中小企業者がその対象です。そして、個人事業者の場合は、中小企業者等であることの証として、①常時使用する従業員数が1,000人以下である旨の誓約書、②性風俗関連の特殊営業をおこなっていない旨の誓約書の提出が必要です。

また、法人の場合には、①資本金がわかる登記簿謄本の写し等、②大企業の子会社でない旨の誓約書、③性風俗関連の特殊営業をおこなっていない旨の誓約書の提出が義務付けられています。

これらを踏まえたうえで、令和2年2月~10月の任意に継続する3か月間の事業収入が
①前年同期比30~50%未満減少の場合は2分の1軽減
②前年同期比50%以上減少の場合は全額免除
となっています。

(2)軽減対象になる税目

軽減対象となる固定資産税等としては、
①設備等の償却資産及び事業用家屋に対する固定資産税
②事業用家屋に対する都市計画税
ここで注意すべきは、仮に事業用であっても、土地は軽減の対象にはなっていないことでしょう。

(3)申請方法

令和3年1月31日までに、『認定経営革新等支援機関等』の確認を受けて固定資産税を納付する市町村に、必要書類と共に軽減を申請することになります。なお、市町村による申請受付開始は、令和3年1月が予定されています。

ここで、認定経営革新等支援機関とは、専門知識や実務経験が一定レベル以上の者に対し、国が認定する公的な支援機関ということになっています。具体的には、商工会や商工会議所など中小企業支援者のほか、金融機関、税理士、公認会計士、弁護士等が主な認定支援機関として認定されています。

このように記載すると、この認定支援機関はいかにも重々しい感じがあります。ただ、実務的には一定事項を記載した申請書を提出すれば、上記の資格者は書類審査だけでほぼ自動的に認定されることになっています。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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