修繕しても修繕費にならない?
賃貸住宅の修繕をする。当然のこととしてそれなりの費用がかかります。それにもかかわらず修繕費(経費)にならない、などということが一体あるのでしょうか。厳密に言うと、決して費用にならないわけではないのですが、修繕費として一時に経費化できない場合があるのです。
これを税務の用語で「資本的支出」(資産)と言うのですが、修繕の効果が長期にわたるため、経費化するのにも時間をかける必要があるのです。具体的には「減価償却」という手続きで、数年から数十年かけて費用にしていかなければならないのです。
最も典型的な例としては建物本体がわかりやすいでしょう。建物を建築するのに、仮に1億円かかったとします。建物の引き渡しを受けて代金を支払った時に、その1億円がすぐに経費になるのでしょうか。答えはもちろんNoで、建物の耐用年数に応じて経費としていくのです。
建物について建築代金の1億円を一時の費用にすることができないのは、仕方がないと思われた方も多いと思います。では、なぜ仕方がないのでしょうか。一度建物を建築すれば、鉄筋であれ木造であれ、何十年もの長期にわたって建物としての効用を果たしてくれるからです。決して建物代金を支払った時だけで、その効用が失われるわけではないからです。
費用と収益は対応させるのが原則!
税金は個人の所得税も会社の法人税も、平たく言えば儲かった部分に課税されることになっています。どんな事業をやっていても、赤字になってまで課税するほど酷なことは税務署もしないのです。もっとも法人の場合には、均等割と言って利益と関係なく最低限の負担額はあるのですが、本題とは離れますのでここでは省略をします。
さて、その利益の算出方法ですが、要は売上から仕入と諸経費を控除するということでしょう。税務的には収益から費用を差し引いて所得を算出するという言い方をします。ここで重要な事は、個人なら暦年の1年、法人なら各事業年度(通常は1年)がその計算の単位です。その事業年度ごとに所得を計算するわけですが、その期間に対応する収益と費用を確定させなければなりません。
そのためには、それぞれの期間に属する収益と費用を、一定のルールに従って計算することが必要とされるのです。前述の減価償却は時の経過に伴って、資産が劣化する部分を税法のルールに則って計算をするものです。それを考えた場合、基本的には簡易な修繕で金額的にも重要でないものは支払時点での修繕費になります。逆に、金額的にも多額で、その後も比較的長期にわたって機能を維持できるものが資本的支出となります。前述の建物本体の考え方と同じです。
修繕費と資本的支出の区分
考え方はおわかりいただけたものとして、それでは具体的にはどんなものが修繕費で、どんなものが資本的支出になるのでしょうか。
所得税法や法人税法という税法そのものに、それらの詳細の規定はありません。しかし、各税法には基本通達と言って税務職員が税務上の判断をし、執行する際のルールがあります。それらの通達は広く公表されていて、誰でもが手軽に参照することができるようになっています。その通達ですが、両税法ともほぼ同様の規定をしていて、具体例として次のようなものを挙げています。その概要を抜粋、整理すると、まず資本的支出については、
①避難階段の取り付け等物理的に付加した部分。
②用途変更のための模様替えや改造、改装。
③機械の部分品を特に品質や性能の高いものに取替えた場合で、通常の取替え費用の額を超える部分の金額。
となっています。なお、建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たるとされています。
また、修繕費に含まれる費用としては、
①建物の移えい(※)又は解体移築をした場合。ただし、解体移築の場合には、旧資材の70%以上が再使用でき、そのまま従前と同一の規模や構造の建物を再建築する場合に限る。
②機械装置の移設。
③地盤沈下した土地の原状回復費用。
④建物、機械等が地盤沈下により海水等の浸害を受けたために行う床上げ、地上げまたは移設の費用。
⑤現に利用している土地の水はけを良くする等のための砂利、砕石等の敷設や補充のための費用。
等々となっています。
※移えい:曳家。建築物をそのままの状態で移動する建築工法。
税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。
税理士法人ATO財産相談室
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