土地資産家のための税務講座

その修繕、経費ですか? それとも資産?

修繕に要した支出を経費として一気に計上するか、資産として計上するかは、その年の税額を大きく左右します。経営者としては悩ましいところでしょう。単純な判定が難しいケースもありますが、安易な経費計上は後の税務調査で苦しむことになりかねません。正しく理解するために、修繕をめぐる経費化の問題を中心に、基本的な考え方を押さえておきましょう。

少額または周期の短い費用等の取り扱い

前記のほかにも、同一の固定資産についておこなう修理、改良等が次のいずれにも該当し、それを修繕費として計上、申告している時は経費として認められます。

イ.一つの修理、改良等の費用(2年以上にわたって行われる時は、各年ごとの金額)が20万円未満の場合。
ロ.その修理、改良等が概ね3年以内の期間を周期として行われることが、既往の実績その他の事情から見て明らかな場合。

文言としてはわかったような気がしますが、実務では個別の事情もあり、これですべては解決できそうにありません。

そこで、修繕費か資本的支出かが判然としない場合には、ひとつの基準としてその金額が60万円未満であれば、修繕費として扱ってよいことになっています。これは実務上の要請から、容易に判断できるように定められているもので、一種の割り切りと考えていいでしょう。

ただし、これは修繕費か資本的支出かが容易には判定ができない場合であって、明らかに資本的支出であるものは、60万円基準と関係なく修繕費とすることはできません。

また、もうひとつの基準として、7:3基準というものもあります。これは継続しておこなわれることが前提ですが、両者の区別が困難な場合、支出した金額の30%を修繕費とし、70%を資本的支出とするものです。

法人だけに認められている選択

これまで見てきたように、修繕費なのか資本的支出なのかについての考え方は、個人と法人で基本的には異なることはありません。

しかし、大きくその取り扱いが異なるものもあるのです。その最たるものは、資本的支出となった場合の取り扱いです。資本的支出となれば、減価償却という手続きで数年から数十年かけて経費化して行くわけです。その手続きは個人の所得税の場合、強制償却と言って減価償却することが義務付けられています。

それに対し法人は減価償却をするかしないかは、その法人の任意となっています。また継続することも強制されていません。従って、例えば今期は大幅な赤字が出るので、これ以上経費を計上する意味がないと判断し、減価償却をしないという選択ができるのです。そして翌期からはまた償却を再開することも認められています。つまり減価償却を通じて利益調整をすることが可能なのです。

中小企業者の特例

また、前記で「一つの修理、改良等の費用が20万円未満の場合」には、修繕費として経理処理をおこなっていればそれが認められる旨をお話しました。

それに対し、個人でも法人でも中小企業者で常時使用する従業員数が1,000人以下の場合、青色申告であることが条件ですが、取得価額が30万円未満の資産は、その全額を一時に経費化できる特例が用意されています。ただし、その事業年度の合計額で300万円に達するまでがその限度額です。
この特例を活用することにより、早期に費用化することができるでしょう。

※令和2(2020)年度の税制改正で、この特例の適用範囲が縮小(従業員数が500人以下)されるなどの変更がありました。詳しくは税務署等で確認されることをお薦めします。

所得計算と手残り額

今まで色々と修繕が支出時の一時の経費になるのか、あるいは減価償却という手続きを経て経費にしていくのか、というお話をしてきました。いずれにしても経費になっていくことに違いはありません。ただ、経費計上の時期が異なるだけですが、それは一体何を意味することなのでしょうか。

言うまでもなく、これらは所得計算というか最終的にいくら儲かったのか、あるいは損をしたかの計算をするためです。その中で一点ご注意いただきたいことがありますので、この稿の最後に触れておきましょう。

所得、あるいは利益と言ってもいいのですが、これは収入から諸経費を差し引いて計算します。基本的にはこの金額が手元に残っていることを意味します。しかし、大きな例外として減価償却費があります。これは支出時の経費ではなく、税法で定められた期間に按分して計算したもので、支出した金額や時期とは一致しません。つまり、所得金額は手元に残る金額とは異なるわけです。具体的には、手元の残額は所得金額に減価償却費をプラスした金額ということになるわけです。

本論からは少し外れてしまいますが、借入金がある場合には、元本の返済額も所得計算には影響しません。所得計算上は大きな利益が出ている場合でも、借入金の返済がある場合にはお金が足りない感覚になり、逆に減価償却費が多額な場合には、思った以上にお金があるように感じることにもなるのです。
ただし、これらの調整計算をした残額から生活費を捻出し、さらには貯蓄をするわけで、計算上の手残り額と実際の残額が異なり、お金が足りないと嘆かれるのは、単に読者の皆さんのお金の使い過ぎ(?)が原因かもしれません。

※本記事は2019年10月号に掲載されたもので、2022年1月時点の法令等に則って改訂しています。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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