まずは贈与税の仕組みを知ろう
贈与税の計算は至って簡単です。まずは贈与する財産の評価額を算出しますが、ここはわかりやすく「現金」を例にとって考えましょう。500万円を贈与する場合、500万円から基礎控除額の110万円を控除した390万円を贈与税速算表にあてはめます。贈与税の速算表は2種類あって、祖父母・両親から20歳以上の子や孫へ贈与する場合の図表1(イ)とそれ以外の(ロ)です。ここでは75歳の父から48歳の子への贈与としましょう。
基礎控除後の課税価格が390万円なので、図表1(イ)の「200万円超 400万円以下」に該当し、税率が「15%」、控除額が「10万円」であることがわかります。つまり、390万円×15%-10万円=485,000円が500万円を贈与した場合の贈与税額です。図表の中の控除額というのは、面倒な法律の条文を簡便計算ができるように、工夫をした算式だと割り切ってください。結果だけを見ると、税率は15%だけを乗じているように見えますが、本来は390万円のうち200万円までの部分は10%、200万円を超え390万円までの部分だけが15%の税率なのです。こんな2段階の計算をするのが面倒なので、最も高い税率を乗じ、差額をあらかじめ計算して表にしたものが図表1で速算表と呼ばれているものです。これが控除額の正体なのです。
500万円の贈与をするためには、485,000円の税金が掛かりますが、実際の税率は485,000円÷500万円=0.097で9.7%だとわかります。つまり算式上では15%の税率を掛けていますが、実際には基礎控除の110万円があり、また200万円以下の部分には10%の税率が乗じられているため、結果としては負担すべき税率は9.7%だということなのです。これを実効税率と言います。
相続税の計算はもう少し複雑です
次に相続税ですが、贈与税よりはちょっと複雑です。計算を簡単なものにするため、相続人はひとり。そして、各種の財産の評価をした結果、仮に財産総額が2億円だったとします。まずは、ここから基礎控除額を控除するのですが、基礎控除額は3,000万円に相続人ひとり当たり600万円を加算したものとなります。このケースでは3,000万円+600万円×1人=3,600万円です。2億円-3,600万円=1億6,400万円を法定相続人が法定相続分で相続をしたという前提で、図表2から各人ごとの相続税額を算出し、全員分の合計額を求めます。実際には法定相続分どおりに相続することも少ないでしょう。
しかし、このような方式で合計額を求めるのが相続税の考え方なのです。そして、相続人が複数の場合の各人ごとの合計額を、相続税の総額と言います。
ここでは相続人はひとりなので単純に1億6,400万×40%-1,700万円=4,860万円これが相続税の総額になります。なお、相続人が複数いる場合の各人の負担額は、相続税の総額を実際に相続した財産の多寡で按分するだけです。例えば相続人が3人いて、6対3対1の比率で財産を分けたら、相続税の負担も6対3対1の比率で按分すればよいのです。
比較すべきは両税の実効税率か?
ここまでで両税の計算の仕組みはご理解いただけたものと思います。前述の通り「贈与税」のケースでは実効税率は9.7%でした。同じように、この場合の相続税の実効税率を見てみましょう。相続財産2億円に対して相続税の総額は4,860万円。つまり、4,860万円÷2億円で24.3%であることがわかります。
これが相続税の実効税率です。このことから、一般的には贈与税の実効税率が、相続税の実効税率24・3%以下の贈与であれば、相続よりも贈与をした場合の方が“お得”と考えられています。
計算の過程は省略しますが、1,470万円の贈与をすると、贈与税額は354万円。贈与税の実効税率は354万円÷1,470万円で24・0%となり、相続税の実効税率とほぼ同率になります。つまり、1,470万円までの贈与であれば、相続税の税率よりも低く、生前に贈与をおこなった方がお得になるわけです。
このような説明をすると、そう言うことか、とうなずかれた方も多いと思いますが、本当にこの説明は正しいのでしょうか。実際にこのように説明をしているものが世間にはあふれ、一種の常識となっている感さえあります。
しかし、結論から言うと、これは間違った考え方なのです。なぜなのでしょうか。
税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。
税理士法人ATO財産相談室
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