土地資産家のための税務講座

相続税の納税対策にも影響、譲渡税の課税強化!

平成26年度税制改正により「相続税の取得費加算の特例」が見直しされ、譲渡所得の計算上、取得費に加算できる相続税額は、売却した土地に対応する部分に限定されました。今回は、取得費加算の特例の考え方やその背景、改正による今後への影響などについて詳しく見ていきます。

平成26年度の税制改正では、総じて個人は課税強化となっています。しかし、その中でも特に影響の大きいのが、相続により取得した財産を売却した場合の課税関係でしょう。相続財産を売却すると、支払った相続税のほかに今度は譲渡税まで課税されてしまいます。ただ、その場合、相続税の申告期限から3年以内の売却なら、譲渡税が軽減される特例が受けられます。 しかし、今回の改正で軽減額が大幅に減額。今後は相続税の納税対策も、根本的な見直しが必要になりそうです。

現行制度の概要

相続財産を売却した場合の譲渡税の特例を、“取得費加算の特例”といいます。売却した財産のいわゆる原価である取得費に、一定額を加算し原価の額をアップしてくれるのです。その結果、売却益が減るために譲渡税も軽減される仕組みです。

はじめに譲渡税の計算の仕組みを示すと、次のとおりです。
[譲渡所得の計算]
売却額-取得費(原価)-譲渡経費=売却益(損)

[売却益がある場合]
売却益 × 税率=譲渡税額

【図1】をご覧ください。相続で取得した財産のうち、土地Aを1,500万円で売却するとします。譲渡税を計算する際、特に相続の場合には取得自体がかなり昔で原価が不明なことも多いものです。その場合には売却価額の5%相当額をいわゆる原価と見てくれます。
それに加えて相続税額加算(③・【3】)の算式のような加算がなされますが、実はこの算式の分子にご注目いただきたいのです。

分数式は注書きにもあるように、相続財産に占める土地等の価格の割合を計算するものです。納めた相続税額のうち、売却したのが土地Aだけであっても、売却しないBまで含めて割合計算をしているのです。

その結果、取得費が膨らみ、このケースでは譲渡税は算出されていません。

この制度の問題点

現行の税制では、相続した時点で相続税がかかり、それを売却したら今度は譲渡税が課税されることになっています。一見すると同じ財産に重複して課税され、二重課税のように見えなくもありません。

ただ、税法上の理屈では、相続したこととそれを売却し、譲渡益が生じた場合にその売却益に課税することとでは、全く別次元の問題なのです。従って、決して二重課税にはなっていないのです。

とはいうものの、現実問題としては相続税を支払い、売却したら今度は譲渡税の支払いで手取り額がさらに少なくなるとなれば、やはり税負担が重いのは確かでしょう。そこで、少しでもその負担を軽くしようというのがこの制度の目的だったのです。

さて、再び【図1】の③・【3】の算式に話を戻しましょう。前述のようにこの算式の本来の意味は、売却した土地が相続財産の全体の中でどれくらいの位置、割合を占めているのか、ということが基本になっています。

例えば、その相続人が相続した相続財産全体の4分の1を土地が占めているのなら、その相続人が納付すべき相続税額の4分の1は譲渡税の計算上考慮しようという考え方なのです。

にもかかわらず、売却していない土地を分子に含めるのは、明らかに道理ではありません。なぜ、このような算式になっているのでしょうか。実は、この様な算式については、歴とした経緯があるのです。

話は平成5年にさかのぼります。バブルがはじけた当時を振り返ってみましょう。相続税において、土地は基本的には路線価をもとに計算します。ただ、この路線価、毎年7月1日(当時はもっと遅かった)に公表され、それがその年1年間に起きた相続に適用されていました。

また、相続税の申告期限も当初6か月だったものが、平成5年からしだいに延長され、10か月まで延長された経緯があります。例えば、平成5年6月に開始された相続は、7か月後の平成6年1月に申告期限が到来することになっていたのです。

そうすると、申告期限時点ではすでに年が変わり、地価はますます下落。相続時点の高い評価額で課税され、実際に売却しようとした時には、その価額では地価の下落で売却ができない事態が生じていたのです。

そこで納税をする立場からは、売却ではなく評価されたそのままの高い価額で収納される物納が有効な納税方法になったのです。

そのため、物納の申請件数が大幅に増え、課税当局の手が回らない程になってしまいました。何とか売却を促進し、換金化をして納税してもらう必要が生じたのです。

そこで考え出されたのが、現行の取得費加算の特例です。この特例を使えば、特に土地を多数所有する地主層は、譲渡税が大幅に減少し、または税負担なしで売却が可能になったのです。

ただし、前述のようにこの算式、理屈に合うものではありません。また、地価の下落も影響し、申告された相続財産のうち、土地等の価額は平成5年に13兆円強だったのが、平成17年以降は5.5兆円程度にまで下がってきていました。

平成5年当時の状況とは異なり、もはや、譲渡税の申告にあたり、従来のような特別な配慮は不要であるという指摘を、課税当局はたびたび会計検査院から受けていました。

その結果を受けて、本年度の税制改正では従来の計算方法に戻ってしまったのです。

なお、この改正は平成27年1月1日以降の相続により取得した財産を売却した場合に適用されることになっています。

改正後の影響

今回の改正で【図1】の③・【3】以下が【図2】のように変わります。取得費として加算される金額が減ってしまうため、譲渡益が増えて、何とこのケースでは約220万円の譲渡税まで生じてしまうのです。

さて、それではかつてのように、また物納が大幅に増えてくるのでしょうか。当時とは地価の変動状況は全く異なります。バブルがはじけた時のような、地価の大幅な下落傾向は見られません。むしろ都心では、上昇傾向にあると言っていいでしょう。

ただ、上昇傾向と一口に言っても、地域により相当のバラつきがあるのです。従って、その地域の特性を見極めて判断することが必要でしょう。

いずれにせよ、今までのように譲渡税の負担をほとんど考えなくてもよい状況ではなくなります。単純にどこかの土地を売却すれば、それで相続税は払えると、事はそれほど簡単ではないのです。どういう方法で納税するか、今まで以上に納税対策が重要になってきます。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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