皆さんは、資産のポートフォリオという言葉をお聞きになったことがあると思います。
「ポートフォリオ(portfolio)」とは、もともと「紙ばさみ」を意味する英語からきています。「持ち運びができるように書類を入れるもの」をさし、一般には「書類カバン」や「折りカバン」などをいいます。また、「画家や写真家、デザイナーなどが自分の作品を整理してまとめたもの」も、ポートフォリオと呼ばれます。
「資産のポートフォリオ」という場合には上記の意味から転じて、「金融機関や投資家が所有する各種の金融資産の一覧表」という意味や、「安全性や収益性を考えた有利な資産の組み合わせ」という意味で使われています。ここでは、この「安全性や収益性を考えた有利な資産の組み合わせ」という意味で、「資産のポートフォリオ」という言葉を使いたいと思います。
言うまでもないことですが、ある程度の資産を保有する資産家の皆さんにとっては、この「資産のポートフォリオ」をどう構築していくかということは、極めて重要なテーマです。しかし、わが国の土地資産家の多くは、これまでこの「資産のポートフォリオ」という考え方は、あまり重視してこなかったように思えます。土地資産家の多くは、「資産のポートフォリオ」よりも、先祖代々受け継いできた「土地を中心とする資産の保有継続」を重視してきたからです。
この戦略は、少なくともバブルが崩壊する1980年代までは、資産価値の拡大を図る上でも極めて効果的な選択でした。土地資産を保有し続けていれば、毎年その価値が上がり続けていたからです。しかし、地価公示の全国平均価格(住宅)を見ても、1991年の306,500円/m2をピークに、2012年の110,700円/m2まで、バブル崩壊後20年余り地価はほぼ一貫して下がり続けており、「土地を中心とする資産の保有継続」が資産価値の減少を招いていることは明らかです。
それでは、土地ではなく、バブル崩壊後のこの20年余りの期間について、金融資産を中心にしたポートフォリオであればどうだったのでしょうか。例えば日本株であれば、日経平均株価は1989年末の38,915円をピークに、2012年末には10,395円にまで下落しており、株式中心のポートフォリオを組んだ資産家の大半は、土地資産中心のポートフォリオの投資家とほぼ同じように、資産価値の減少を被っていたと考えられます(図1参照)。
結局、バブル崩壊後の20年余りの期間の勝者は、現金や国内債券を中心に資産のポートフォリオを組んでいた資産家でした。しかしこれはあくまで結果論です。「現金や国内債券中心のポートフォリオ」が有利だったのは、わが国のこの20年余りの期間が、ほぼ一貫してデフレの時代だったからです。デフレの時代があとどのくらい続くかはわかりませんが、資本主義の歴史から見て、デフレの時代とインフレの時代は交互に訪れ、しかもインフレの時代の方が長く続いていると言われています。ですから、これからも、「現金や国内債券中心のポートフォリオ」が有利であるとは、全く言えないのです。
それでは、これからの時代、資産家にとって有利な「資産のポートフォリオ」とは、どんなポートフォリオでしょうか。ひとつの考え方として、「分散投資」という考え方があります。異なる種類の資産に資金を振り分ける考え方で、昔から「卵を一つのカゴに盛るな」という格言にもあるように、資産運用の基本とされています。
しかしながら最近では、特に金融資産については、この「分散投資」の効果が落ちていると言われています。たとえば、2000年代半ば以降、日本株と外国株や外国債券、コモディティ(商品)の動きは連動性を強めており、こうした資産に分散投資しても、同じように値上がり値下がりを繰り返し、「分散投資」の最大のメリットであるリスクヘッジが効かなくなっているのです。日本株式と唯一連動性の低い金融資産としては国内債券がありますが、この二つの組み合わせでも、有効なリターンは得られていないのが事実です。もちろん、「分散投資」という考え方自体を否定する必要性はありませんが、「分散投資」といっても、やはりどの分野に投資するかという選択が必要な時代になっているのです。
それでは、分散投資の柱になるような投資分野としては、どの分野が有力なのでしょうか。残念ながら、将来のインフレあるいはデフレ傾向や、為替の推移を予測することはできませんので、ここでは、そうした経済変動の影響を受けにくいひとつの分野を提示したいと思います。それは、「土地建物一体となった収益用不動産」という分野です。
なぜ、「収益用不動産」が「資産のポートフォリオ」を考える上で有力な投資分野なのか、次回は、その理由を明らかにしたいと思います。
※本記事は2013年3月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。
株式会社アークブレイン
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