資産運用

不動産投資は危険なもの?

昨今の世界金融危機による混乱を受けて、世間では「不動産投資は危険なもの」という見方が広まっているようですが、はたして、そうなのでしょうか? 破綻に追い込まれた新興不動産企業やファンドなどが行っていた不動産投資がどういうものなのかを見ることで、自ずと答えが出てきます。詳しく説明していきましょう。

米国のサブプライム問題に端を発した今回の世界金融危機は、かつてないほどのスピードと広がりをもって拡大を続けています。当初は、金融機関の健全性などから、わが国の実体経済には影響が少ないのではないかという対岸の火事的な見方もあったのですが、東京証券市場の株価の暴落、円高の影響などもあって、輸出産業をはじめとする実体経済にも深刻な影響が出始めています。まさに、1929年の世界恐慌以来の未曾有の経済危機が訪れようとしているのです。

こうした中で、東京証券市場のREIT(不動産投資信託)の株価は暴落し、不動産証券化市場も機能不全に陥り、REITや不動産ファンド相手に開発したオフィスビルビルや賃貸マンションなどを売却していた新興の不動産企業の多くが、経営破綻や撤退に追い込まれています。まさに、ここ数年続いていたファンドバブルが崩壊したのです。

こうしたことから、世間一般では、「不動産投資は危険なもの」という見方が再び広まっているように感じられます。つまり、「不動産投資は株式投資と同じく、リスクの高い投資であり、一般の人には向かない危ないものだ」という考え方です。はたして、この考え方は、正しいものなのでしょうか?

結論から言えば、昨今の破綻に追い込まれた不動産企業が行っていた不動産投資の多くは、明らかにハイリターンを狙った投資であり、当然のことながら、ハイリスクを伴うものだったと考えられます。しかし、不動産投資そのものが危険なものという見方は誤りだと考えられます。以下、その理由を順次見ていくことにしましょう。

不動産投資というものは、元来、毎年の賃料収入に基づく利益(これを、「インカムゲイン」と呼びます)と、売却時の値上がりに基づく利益(これを、「キャピタルゲイン」と呼びます)の双方を期待する投資行為ですが、前者のインカムゲインの総投資額に対する比率が安定的で比較的高いことが、不動産投資の大きな特徴となっています。つまり、不動産投資の場合、安定的で比較的高いインカムゲインを期待する投資家が元来多いわけです。たとえば、地主さんが自己所有地に貸しビルを建てるといった投資では、もともと、売却する予定は全くなく、インカムゲインだけを期待した投資になるわけです。これに対して、たとえば、株式投資の場合には、毎年の配当収入も多少は期待できますが、投資家の大半は、株式の値上がり益、すなわち、キャピタルゲインを期待して投資するわけであり、インカムゲインを期待する不動産投資とは大きく異なるわけです。

ところが、昨今の不動産市場で新興不動産企業やファンドなどを中心に行われてきた不動産投資は、投資期間が長くても5年以下と極めて短い期間の投資行為が大半であり、結果的に、売却時の値上がり益、すなわち、キャピタルゲインを期待した投資行為が主流となっていたのです。こうしたキャピタルゲイン狙いの不動産投資は、不動産価格の下落局面が訪れた場合には、破綻するのは当然のことだったわけです。

こうした、キャピタルゲイン狙いの短期的な不動産投資に加え、借入金に過度に依存した不動産投資が横行したことも、昨今の不動産投資の特徴でした。特に、不動産ファンドなどの資金調達では、短期の借入金が主体であり、従来の地主さんによる賃貸ビル建設などが長期の借入金を主体としていることとは、全く対照的でした。このことは、不動産市場が好調で、不動産価格が上昇している局面では全く問題がなかったのですが、昨年来の不動産価格の下落局面では、短期借入金の借り換えがうまくいかず、不動産の売却自体も難しくなり、不動産ファンド等の経営破たんを招く直接的な原因となったのです。また、不動産投資に限らず、あらゆる投資行為では、その投資行為自体の利回りが借入金の金利を上回る場合には、借入金の比率を高めれば高めるほど、自己資本に対する期待利回りが高まるとともに、投資環境が変化した場合の期待利回りのブレの大きさ(これを、「リスク」といいます)が高まるという原則があります。つまり、借入金比率を高めれば高めるほど、ハイリスク・ハイリターンの投資となるわけです。そうした観点からは、昨今の新興不動産企業や不動産ファンド等による不動産投資の多くは、不動産価格の上昇を期待したハイリスク・ハイリターン狙いの投資であったと言うことができるでしょう。

さて、以上、昨今の不動産投資が破綻に至った理由を見てきたわけですが、ここでわかることは、不動産投資自体がリスクの高い危険なものだったのではなく、そのやり方に問題があったという事実です。すなわち、不動産価格の値上がりを期待した、短期の借入金依存のハイリスク・ハイリターン狙いの投資が、不動産市場の下落局面により破綻をきたしたに過ぎないのです。言い換えれば、不動産価格の値上がりを前提としない、インカムゲインを期待した自己資金中心の不動産投資であれば、現在の金融危機にあっても、ビクともしないわけです。不動産投資自体は、不動産の立地や建物の管理運営状況などに大きく影響されるので、そうした面でのチェックは必要ですが、少なくとも、テナントニーズのあるエリアで、地主さんが自己所有の土地に自己資金主体で投資する不動産投資である限りは、この不透明な時代にあっても、もっとも確実に、比較的高い利回りを期待できる投資であるということができるでしょう。

※本記事は2008年12月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。

株式会社アークブレイン

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