スペシャリスト ビュー

株式会社チームネット 代表取締役 甲斐 徹郎 氏

理想の住まいと暮らしに寄り添う快適な環境と良好なコミュニティ
個人では味わえない豊かさをみんなで手に入れる「コミュニティベネフィット」という考え方

環境という「目的」とコミュニティという「手段」

良好なコミュニティを育んできた「経堂の杜」という物語がある一方で、コミュニティは本当に必要なのかという見方もあります。というのも、コミュニティについて人に話を聞くと、必ず「コミュニティは煩わしい」という意見が出てくるからです。結論から言えば、そういう前提のうえで、コミュニティをどうするか明確にしておくことが、不動産事業を成功に導く鍵になると私は考えます。

コミュニティは煩わしいけれど、コミュニティがなければ人々は孤立し、自己肯定感や幸福感を感じにくくなる。ではどうすればいいかと言うと、煩わしさを感じることなく、コミュニティが機能する暮らしをつくればいいのです。ここで重要なのは、「コミュニティを目的化しない」ことで、これこそが私のコンサルティング事業の中核にある「コミュニティベネフィット」という考え方になります。

このコミュニティベネフィットというのは、せんじ詰めれば「コミュニティの手段化」です。他者との関係性を手段化し、その共通のベネフィット(利益)、共通の価値を目的にして、お金もエネルギーも投資するという仕掛けをつくれば、「経堂の杜」が具現化したように個人では決して得られないようなとてもぜいたくな価値が得られます。事実、一家族では管理できるはずもない樹齢150年のケヤキの屋敷林に囲まれた暮らしは、コミュニティという手段がなければ実現できなかったものです。

また、これを少し別の言葉で言うと、仲良くなることとコミュニティを活かすことは別物だということです。重要なのは、気が合う・合わないにかかわらず協力すれば得られる共通の価値を見つけることで、合理的に協力し合える関係性さえつくれれば、みんな気持ちが楽になる。そして何を共通の価値にすればいいかというと、その基準は個々人で見解や好みが分かれる「良い・悪い」や「好き・嫌い」でなく、生物学的な生存欲求に直結するゆえに共有できる「快・不快」なんですね。つまり、暮らしにおける「快」を極限まで追求することが、コミュニティベネフィットを最大化するためのアプローチで、そのときに人々に「快」をもたらす最大のものこそが、誰にとっても心地よい「環境」なのです。

その土地の「物語」を経営資源として活かす

この「経堂の杜」を起点に、その後私は多くの環境共生型コーポラティブハウスのプロジェクトを手がけてきましたが、そこで出会うのは屋敷林や蔵などがある土地を代々引き継いできた地主さんたちです。そういう方々には、その地域の歴史の一部を継承してきたという立ち位置があり、その人でなければできない事業というものがあると私は思っています。

現在、経済合理性の名のもとにその土地で育まれてきた自然環境はなくなっていく状況があります。実際、樹木などの緑は世話が大変で負担も大きく、単に土地の売りやすさや開発しやすさを考えると、そういった樹木がないほうがいいのかもしれない。けれど一方では、「経堂の杜」のように以前からあった豊かな自然が快適な生活環境を生み出し、良好なコミュニティを育み、その土地の資産価値を高める源泉になったケースもあります。

そういう意味で私が追求したいのは、ずっとその土地に関わり続けていく地主さんの生き方や価値観を事業と整合させることです。その土地に関して地主さんご自身が大事にしている「何か」は、実はとても大きな経営資源であり、それをコミュニティベネフィットの視点から際立たせ、事業の中で組み立てていくことが必要ではないでしょうか。

※本記事は2019年6月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

株式会社チームネット 代表取締役 甲斐 徹郎 氏
株式会社チームネット代表取締役。都留文科大学非常勤講師。1959年東京都生まれ。千葉大学文学部行動科学科卒業。独立前に高断熱・高気密住宅の普及活動に従事。1995年に住環境のプロデュース会社を設立。環境共生をテーマとして個人住宅や集合住宅から大規模宅地の開発まで数多くの実績を持つ。主な著書に『不動産の価値はコミュニティで決まる』(学芸出版社)、『人生を変える住まいと健康のリノベーション』(新建新聞社)、『まちに森をつくって住む』(農文協)、『自分のためのエコロジー』(筑摩書房)など。

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