市場環境の変化に配慮しながら
不動産の特性に応じた活用策を
相続税対策で賃貸住宅の着工が増加している中、人口の増えている東京でも郊外エリアでは、立地やクオリティなど物件の特性によって、賃貸住宅間の優勝劣敗がより鮮明化していくでしょう。今後さらに競争が激しくなる不動産市場で勝ち残っていくためには、それぞれの地域の市場動向や立地、将来性といった各不動産の特性を十分に理解して、最適な不動産活用を検討・実施していく必要があると思います。
東京でも人口流入が続いている都心部であれば住宅ニーズが見込めますが、持家を購入する経済力のない若年層などは、今後も賃貸住宅を求めるはずです。しかし、地域によっては一般的な賃貸住宅だけでなく、高齢者向け介護施設や医療施設、保育所、商業・オフィスビルなど、様々な選択肢の中から最適な活用策を考えてみることが大切だと思います。場合によっては、所有する郊外の不動産は思い切って売却し、都心の不動産を購入する、といった資産の組換えを検討したほうがよいケースもあるでしょう。
不動産市場を正確に見極めるためには、人口動態や世代構成がどのように変化しつつあるのか、といったその地域の状況をきちんと把握しておくことがとても有意義なことだと思います。例えば、空室率や建築着工数といった不動産経営に関係の深い官民の各種統計データを参考にするのもいいでしょう。なお当社も四半期に一度「不動産クォータリー・レビュー」というレポートを発表しています。
地域特性によって不動産市場の動向は大きく異なってきますし、同じ地域の中でも不動産ごとに市場競争力には差が生じます。つまり不動産は極めて個別性の高い資産だと言えるのです。住宅着工数や空室率の傾向は、不動産市場全体を把握するためには非常に有効なデータではありますが、その数字だけを基に資産経営の筋道を立てるべきはありません。ご所有不動産の「競争相手は誰で、どうすれば勝てるか?」といった視点やノウハウを持って、総合的に判断する必要があります。つまり、統計データから市場の大まかなトレンドを把握して、経営判断は競合分析などよりミクロな視点で検証する。それが個別性の高い不動産経営に求められる姿勢ではないでしょうか。
※本記事は2017年1月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
金融研究部 不動産市場調査室長
北海道大学大学院環境科学研究科修士課程修了後、1990年に株式会社野村総合研究所入社。1993年にニッセイ基礎研究所に入社し、現在はオフィス、住宅、商業施設、ホテルなど各市場の分析・将来予測とともに投資分析を担当。主な著書に「【最新】事業用ビルのコスト管理実務資料&コスト算定シミュレーション」(共著/綜合ユニコム)、「不動産ビジネスはますます面白くなる―成熟市場で成長の芽を見いだす」(共著/日経BP)など。
株式会社ニッセイ基礎研究所
竹内 一雅 氏