国税庁財産評価基本通達24-4に規定されている広大地は以前のコラムでも取り上げています。その定義はいろいろなところで言及されていますのでここでは省略します。
納税者にとって、所有している土地が広大地に認めてもらえれば、(仮に4,000m2の土地であれば)正面路線価の40%になります。広大地が適用されない場合の土地評価額が4億円です。しかし、広大地に認められれば1.6億円になるのですから、こんな優遇措置を使わない手はありません。
ところが、この1.6億円でも高すぎるような土地があります。これを仮にA地とします。
A地の概要
- 東京都○○市
- 最寄駅:徒歩20分
- 面積:4,000m2
- 路線価:110,000円
- 道路面より5m高い全体が傾斜地(平均斜度15度の山林)
- 用途地域:第1種低層住居専用地域
- 建ぺい率:40%
- 容積率:80%
A地の広大地評価は以下のとおりです。
110,000円/m2× 0.40 × 4,000m2= 176,000,000円
しかし、ここで重要なのは、この山林を買ってくれるのは誰か? この価格で売れる可能性はあるのか? を考えることです。
鑑定評価では需要者のことを市場参加者と言います。
一般的な土地(面積120m2程度の標準的な画地)であれば、価格も2,000~3,000万程度と買いやすくなります(もちろん地域によって違いますが)。このような土地であれば、市場参加者は、いわゆるエンドユーザーと呼ばれるサラリーマン層が期待できます。
しかし、本件のような山林は建売業者のような不動産開発業者が購入して、多額の宅地造成工事費や広告費等の経費をかけて、更に利潤率を加味したもので戸建て用地に仕上げ、それを一般のエンドユーザーに販売することが通常です。
このような土地を素地と言います。つまり工業製品で言えば宅地の元になる原料みたいなものです。これに宅地造成等の加工代金をかけて商品に仕立てる訳です。
鑑定評価額の決定
- 造成後の販売価格;135,000円/m2
- 有効宅地化率:約70%
- 造成工事費:70,000円/m2
- 利潤率及び経費率:20%
- 販売期間:20ヶ月
(計算過程は省略)
これらのことを総合的に判断して鑑定評価額を65,000,000円と決定しました。
その後、この土地を不動産業者に売却することになりました。1年経過して、ようやく70,000,000万円で売れました。
このことより鑑定評価額がほぼ妥当な評価だったことが証明されました。
ところが広大地評価は1億円以上高い評価になっています。もし、広大地評価を信用し、この評価で申告していれば過大な税金を納めることになります。
がけ地、傾斜地、山林状の土地は、広大地評価でも高過ぎることがよくあります。時価を正しく判定することが納税者に信頼される重要なポイントです。
※本記事は2010年10月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
不動産鑑定士。昭和28年北海道生まれ。神奈川大学法学部卒。株式会社東京アプレイザル代表取締役。士業との連携も活かし、数多くの不動産を鑑定評価。平成12年には相続アドバイザー協議会を設立し、相続の専門家教育にも従事している。著書に『事例に見る 相続時の土地評価と減価要因』など。
株式会社 東京アプレイザル
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