資産承継

境界とは?

境界とは?

私たちは普段、あまり意識しないで「境界」という言葉を使っていますが、「境界」とは一体何でしょうか? 「境界」とは一般的には、何かと何かの境のことを言いますが、土地の場合は何の境なのでしょうか?

土地の「境界」を大きく分けると、公法上の「境界」と、私法上の「境界」に分けることができます。公法上の「境界」には、「筆界」や「行政界」があります。私法上の「境界」には、「所有権界」や「占有界」等があります。

今回は、公法上の境界「筆界」と私法上の境界「所有権界」について見ていきたいと思います。

1.公法上の境界「筆界」(ひっかい)とは

「筆界」とは、一筆毎に付した地番と地番の境のことです(「地番」とは、地租改正事業により、土地を人為的に区画して、その一区画毎に付けた番号のことです)。

法務局で取り扱っている「境界」は、全て「筆界」です。土地の登記簿(登記記録)に載っている地積は、筆界で区画された一筆の土地の面積です。法務局にある、地図や公図(地図に準ずる図面)、地積測量図に表されている境界線も、全て「筆界」です。

不動産登記法第123条1号には「筆界」を『表題登記がある一筆の土地とこれに隣接する他の土地との間において、当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた二以上の点及びこれらを結ぶ直線をいう』と定められています(「表題登記」とは、不動産登記簿(登記記録)のうち、表題部と呼ばれる欄になされている登記のことです。この欄には、土地の場合、所在、地番、地目、地積が記載されています。また、「一筆」とは、一つ(の土地)という意味です。土地を数える時の単位が「筆」です)。

(1)公法上の境界「筆界」の成り立ち

明治6年、明治政府は、国家財政の基盤を確立するために、地租制度を採用することとしました(地租改正)。そこで、納税義務者となる土地の所有者と、その土地の位置及び形状を把握するために、土地を一つ一つ確定する地押丈量(測量)を全国的に実施しました。

この地押丈量によって作成されたのが、地租改正図、地押調査図(更正図)と言われる測量図です。この地租改正図、地押調査図(更正図)をもって公簿(地券台帳)に記載され、公示されることとなったことから、この時に土地の境界が定まったと考えられています。

この当時の境界を「原始的筆界」と言います。現在、法務局にある公図(地図に準ずる図面)の大半は、この時の地租改正図、地押調査図(更正図)が基になっています。ちなみに、現在の土地登記簿(登記記録)の表題部の元になっているものが、地券台帳です。

その後、土地の分筆や合筆により形成された「筆界」や、区画整理事業等(合筆・分筆)により新たに形成された「筆界」を「後発的筆界」と言います。

現在私たちは「原始的筆界」と「後発的筆界」を合わせて、「筆界」と呼んでいるのです。

(2)公法上の境界「筆界」の性質

「筆界」は、上記のように、国家の財政基盤を確立するための課税単位として、公的、行政的に形成されてきたものなので、個人が自由に変更できるものではありません。例え個人間で合意したとしても、筆界を変更することは出来ません。筆界が出来た時点において、客観的に固定して動かないものとされています。

「筆界」を新たに形成できるのは、裁判所の確定判決と、法務局の登記官が行う分筆、合筆だけです。この3つ以外にはありません。

『筆界に幅がある』と言う方がいますが、筆界は地番と地番の境なので、そこに幅や広さはありません。

次に、私法上の境界「所有権界」について、見ていきましょう。

2.私法上の境界「所有権界」とは

「所有権界」とは、所有権と所有権の境のことで、隣接地の所有者間で合意された境界線です。私たちが一般に「境界」と言っているのは、「所有権界」のことです。

民法物権編第3章206条以下に所有権が定められています。


(1)私法上の境界「所有権界」の成り立ち

明治5年、土地を耕作するなどして支配していた者の私的所有権が認められました(地所永代売買の禁解除)。これによって、所有権と所有権の境である所有権界が発生したと考えられます。

明治6年、地租改正事業の地押丈量(測量)で確定した土地の範囲は、明治5年に認められた所有権の範囲を確定したものです。つまり、元々の筆界「原始的筆界」は、所有権の範囲と一致していた訳です。

(2)私法上の境界「所有権界」の性質

「所有権界」は、当事者が自由に決定し、処分できます。隣接する土地所有者同士が話し合って変更することができます。

最後に、公法上の境界「筆界」と、私法上の境界「所有権界」が一致しない場合について、見ていきましょう。

3.「筆界」と「所有権界」の不一致

公法上の境界「筆界」と私法上の境界「所有権界」は、元々一致していた訳ですから、現在も一致している場合が多いと言えますが、一筆の土地の一部を売買したにも関わらず、分・合筆登記がされていないとか、土地の一部が時効取得されたとかで、「筆界」と「所有権界」が一致しなくなってしまった土地があります。

このような土地は、将来、境界紛争になる可能性を秘めた土地です。境界紛争を未然に防ぐためには、過去の経緯を知っている人が元気なうちに、「筆界」と「所有権界」を一致させる必要があります。

しかし、「筆界」は、神のみぞ知ると言われるように、現地に復元することが非常に難しい境界です。実務では、隣接地の所有者に協力して頂き、「所有権界」を確定して、「所有権界」から「筆界」を類推するという手法を取っています。つまり、隣接地の所有者の協力が非常に重要になってきます。隣接地の所有者と良好な関係があるうちに、境界を確定することをお勧めします。

公法上の境界「筆界」と、私法上の境界「所有権界」の違いについて、ご理解頂けたでしょうか? 具体的な事例については、前々回の「境界は一つではない」をご覧下さい。

境界は一つではない

次回は、「境界はなぜもめるのか?」について、お話します。

参考図書

  • 境界紛争解決制度の解説(新日本法規)
  • 筆界特定完全実務ハンドブック(日本法令)
  • 表示に関する登記の実務(日本加除出版)

昭和38年生まれ。平成7年土地家屋調査士登録。測量を通してお客様に「安心」を提供することを目的に平成9年株式会社測量舎を設立。誠実・確実・迅速を合言葉に年間100現場以上の境界確定測量。平成18年土地家屋調査士法人測量舎を設立。ADR認定土地家屋調査士、測量士。

高橋一雄土地家屋調査士事務所

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