ご両親が相次いで他界し、複数の不動産をお姉様、妹様と共有で相続されたご長男であるA様。ご両親のご自宅であった一戸建ては、面倒を見ていたお姉様が現在も継続して暮らしており、一戸建てに隣接する月極駐車場と地方駅前のアパート2棟は、A様が賃貸管理し、その賃貸収入は均等に分配しておりました。 A様は、築25年が経過したアパートについて、空室や修繕費の増加と管理の煩わしさを感じていたことや、お姉様や妹様との仲は良好なものの、妹様が海外で暮らしていることもあり、このまま共有状態にしておいてよいのか漠然とした不安を感じていたことから、プロのアドバイスをもらいたい、とご相談をいただきました。
各不動産の現状と課題
共有されている一戸建て、月極駐車場、地方のアパート2棟を対象に、流通性・収益性、そして時価と相続税評価額の差額(圧縮効果)等を分析できる、三井不動産リアルティ独自の「資産ドック」を作成し、各不動産の状況を把握しました。その結果、次のような内容がわかってきました。
① 都内駅徒歩圏の一戸建て
敷地面積が周辺の標準的な土地より大きい一戸建ては、最寄駅から徒歩5分圏内という立地と整形の敷地形状であることから、流通性の評価が高い不動産でした。一方で、相続税評価額の圧縮効果の面では、敷地が広くお姉様がご自宅として利用しているため、圧縮効果はほとんどありませんでした。
② 一戸建てに隣接する月極駐車場
駅から遠いことや近隣に大規模マンションが増えたこともあり、売却価格が下落傾向でした。また、セカンドハウス利用の為、相続税評価額の圧縮効果も16台分の駐車スペースを確保している月極駐車場は、契約台数は安定しているものの、賃料収入から固定資産税や都市計画税、管理費などの経費を差し引くと、若干の手残り収入が得られている程度で、A様の手間を考えるとキャッシュフローは決して良い状態とは言えませんでした。しかしながら駅から近い立地と一定の広さの整形地であることから、居住用マンションの開発用地として調査してみると、時価評価と流通性が高い状態であることがわかりました。
③ 地方駅前のアパート2棟
2棟とも、築25年を経過しているものの、周辺賃貸マーケットにおいては、生活利便性が高い立地が評価されており、周辺の賃貸物件と比較してもまだ競争力を維持できていました。現状では空室の長期化等の不安材料は見受けられませんでしたが、流通性においては、築年数が経過した建物状態や敷地形状から、高い評価は得られませんでした。一方、相続税評価額の圧縮効果については、効果が得られていることがわかりました。
三井不動産リアルティからのご提案
今回「資産ドック」によって診断した各不動産の状況と役割をあらためて整理したところ、ご所有不動産については、早急に対応すべき課題はなかったため、共有状態の解消へ向けて検討を進めました。A様ご自身の相続への不安、共有している一戸建てをご自宅として利用し続けたいというお姉様、そして海外生活のため日本国内で不動産を所有することより現金化を望まれている妹様のご要望を総合的に考え、下記の通り(表1参照)時価評価が高い月極駐車場を分譲マンション会社へ売却することで、お姉様が居住している一戸建てをお姉様の単独所有化、アパート2棟をそれぞれA様とお姉様の単独所有化、そして妹様持ち分の現金化という、持分売買による共有解消へ向けた具体的なご提案をしました。
A様は「資産ドック」による各不動産の現状把握をしたうえで、あらためてお姉様、妹様と各不動産を今後どのようにしていくかお話されました。ご両親の相続の際に、時間的な制約から「とりあえず共有」を選択してしまったことへの不安は、皆様それぞれがお持ちだったことから、「月極駐車場」の売却による現金を原資に、親族間の持分売買をおこなうことで方向性が決まりました。今回「資産ドック」で各不動産の現状と役割を明らかにしたことで、皆様が納得いただける共有解消策をご提案できたと思います。
※本記事は2018年9月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
三井不動産リアルティ株式会社
ソリューション事業本部 コンサルティング営業一部
大西 良三
「今を知る。先を見る。現状分析から始める資産形成」の記事一覧