「遺贈」「家族信託」などの手続きを検討する
相手の承諾が得られたら、具体的な手続きに歩を進めます。いとこやその子どもなど法定相続人ではない人に資産を残したい場合、また資産の分け方を指定しておきたい場合は遺言書が不可欠です。例えば、法定相続人がいるのに、亡くなった配偶者の親戚などに資産を残したい場合なども遺言書を作成することでその希望を実現できます。このように、遺言を活用して、法定相続人ではない人に無償で財産を譲ることを「遺贈」といいます。
ただし、法定相続人がいる場合は、法定相続人が遺言書の内容に不満を持つなどして、遺贈を受けた人との間でトラブルが起こりかねません。そのため、遺言書を作成する際は、「日常的なことに加え、入院手続きその他一切の世話をしてくれた」など法定相続人以外の人に資産を引き継ぐ理由を付言事項として記しておくことがお勧めです。理由が明確ならば、法定相続人も納得しやすくなります。
また、遺贈のほかに、「養子縁組」をすれば実子と同じように相続できます。このほか、“想い”をつなぐ承継を実現させるには、「家族信託契約」や「任意後見契約」の活用も検討したいところです。本連載の第1回で見た通り、重い認知症になった場合は、預貯金の引き出しや不動産の売却などができなくなります。
そうした事態を回避する方法の1つが家族信託です。家族信託は、財産を任せる「委託者」、引き受ける「受託者」、財産から利益を得る「受益者」で成り立ちます。例えば、ある賃貸物件を家族信託する場合、本人が委託者兼受益者になり、甥や姪を受託者とするなどが考えられます。信託する資産の名義は受託者に変更し、以後、受託者が物件の管理を行い、得られた賃料などは受益者が受け取ります(図表5)。
また家族信託には「遺言代用機能」があり、委託者が亡くなった場合、信託財産は契約で指定した人に残すことができます。例えば、甥に賃貸アパートを承継したい場合、甥と家族信託を結ぶことで、自身の認知機能が低下した場合も、受託者である甥の適切な管理によって資産価値を維持できます。そして委託者が亡くなった際には、甥を指定しておけば自分自身で管理してきた賃貸アパートを承継できるということです。
家族信託では、特定の資産を信託できるほか、契約時点で所有している不動産すべてを信託する、金融資産を信託するなども可能です。ただ、自身が今後使う金融資産もあるため、どの資産をどのような形で家族信託するのかをしっかり考えましょう。
任意後見は、信頼できる人を任意後見人にしておき、自身の認知機能が低下してから死亡するまでの財産管理や契約締結など、あらかじめ決めた行為を任せられるというものです。ただ、財産管理という面では、不動産の購入・売却などの際、任意後見人は家庭裁判所が選んだ監督人にお伺いを立てなければならないため、任意後見契約を結んだからといって資産活用などがすべて自由に行えるわけではありません。その点では、前述の家族信託のほうが使い勝手がよいといえます。
一方、家族信託は契約で定めた資産の管理を任せられますが、高齢者施設の入居契約などは信託することができず、後見人による手続きが必要となります。裁判所が選任した法定後見人に比べ、任意後見人は自身が元気なときに希望を伝えることができるため、希望通りの施設に入居できるなど細やかな対応が可能というメリットがあります。
家族信託や任意後見契約など活用できる手続きをよく理解した上で、うまく組み合わせて対策を練ることが重要です。
受け取る人思いの不動産にする対策をどの資産を残し、誰に引き継ぐかが決まり、遺言や家族信託など必要な手続きを行ったら、次のステップに進みましょう。それは、次世代に引き継ぐ不動産について、収益性や安定性、流動性のほか、資産を受け取る人に負担をかけず、かつ自身の〝想い〟がつなげられるよう、受け取る人思いの不動産にする対策を講じることです。
例えば、特定の不動産を手放してほしくないという“想い”があったとしても、①収益性が低かったり、管理手間がかかったりする物件、②何かしらのトラブルを抱えている物件の場合、受け取る人の負担となりいずれ売却という道を辿ることにもなりかねません。①の建物が老朽化し収益性が落ちている場合は、建て替えや大規模修繕などにより対策を完了させておく、②の借地人と裁判になっている借地や老朽化しているのに立ち退きが進まないビルなどトラブルを抱えた物件の場合は、一定の費用をかけてでも相続発生前に整理をしておくなどの対策が必要といえます。
受け取る人思いの不動産にする対策としては、「建て替え」「改修」「解体」「等価交換」「売却して別の収益不動産に組み換え」「管理会社の見直し」「サブリース契約への切り替え」などさまざまな方法がありますが、それぞれの対策のメリットや留意点を踏まえ、資産を受け取る方との対話を重ねながら対策を立てることが重要です。
また、どのような対策を選択するにしても、生前に土地の測量や境界線の確定を済ませておくなど、建物だけでなく、土地の権利関係を明確にしておくことも重要なポイントです。なお、これらの対策には資金が伴い、ご所有の資金だけでは不足の場合、借入れや一部資産の売却という選択が必要となることもあります。必要な費用も確認したうえで、どういう対策をとるかについて資産を受け取る人とも相談しながら改めて考えることが大切です。
さらに、相続税や将来的な修繕等に必要な現金など、不動産を承継するうえで必要な資金についても、現金や売却用不動産という形で一緒に引き継ぐことで、受け取る人の心理的ハードルが低くなることも考えられるでしょう。もしも納税対策として売却用不動産を継がせる場合には、流動性の高いものにしておくことと、あらかじめ査定を取り売却の見込み額を把握しておくことをお勧めします。
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これで“想い”をつなぐ不動産承継のためのステップは完了です。次回は事例を引きながら納得・満足の解決法をご紹介します。お楽しみに!
(第3回に続く)