老朽化不動産のリスク❶ 建物自体の危険性
不動産の老朽化に対してどのような対策を講じていくか――。そのことを考える前提として、まずは老朽化不動産が抱えるリスクを押さえましょう。老朽化不動産が抱えるリスクは、「建物自体(躯体・設備)」「収益面」「資産承継」という3つに大きく分けられます。
まずは1つ目の「建物自体(躯体・設備)」のリスクから見ていきましょう。1981年6月以降に建てられたマンションなどは、新耐震基準が適用されている建築物であり、震度6強〜7の大規模地震が発生しても倒壊しない耐震性能が求められています。一方、それより前の旧耐震基準では震度5強程度の中規模地震で倒壊しない性能までしか規定されておらず、震度6〜7の大規模地震が発生することは想定されていませんでした(図表1)。
しかし、ここ30 年ほどを振り返っても、1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震など、震度6〜7の地震は20回近くも発生しています。そして、今現在も南海トラフ地震発生の危険性について警鐘が鳴らされています。こうした状況の中で旧耐震基準の建築物を保有し続けることは、建物の倒壊という大きなリスクを抱えていることになります。
また、旧耐震の物件はすでに築40年超となっているため、電気や給湯などの設備機器の劣化も懸念されます。そして、設備機器が故障して修理・交換が必要になっても、旧型の部品がないといった状況もあり得ます。そうなると、部品が調達できないために修理が滞り、賃料の減少や空室の増加といった悪循環に陥る恐れがあるのです。
老朽化不動産のリスク❷ 収益性の悪化
2つ目は、「収益面」のリスクです。
図表2は、マンションなどの共用部の修繕サイクルの目安です。まず、建物の劣化調査や外壁タイルの洗浄、シーリングの打ち替えなど、いわゆる大規模改修が12年周期でやってきます。さらに、築30年を超えて3回目の大規模改修を迎えるころにはエレベーターや給水管・排水管の更新といった高額な費用がかかる修繕も増えていきます。
例えば、4階建ての鉄筋コンクリート造のマンションなどでは、12年周期の大規模改修で1,000万〜2,000万円、エレベーターや給水管・排水管の更新を含めた3回目の大規模改修は5,000万〜8,000万円ほどかかると考えておいたほうがよいでしょう。
そのため、特に多額な費用が見込まれる3回目の大規模改修については、その費用を回収することが可能か否かといった収支を十分に考慮したうえで、大規模改修に踏み切るか、もしくは他の対策手法を模索するかを判断することが重要です。
また、老朽化に伴う物件の競争力低下も収益面のリスクとして認識しておく必要があります。仮に3回目の大規模改修に踏み切り、エレベーターや給水管・排水管の更新などを実施したとしても、全体的な建物のデザインや専有部の仕様が建築当時のままだと、新築・築浅の競合物件と比べ、競争力に劣ります。
例えば築30年超のマンションでは、お風呂とトイレ、洗面台が同じ空間に配置されている3点ユニットバスを採用している物件が多々ありますが、こうした仕様は近年人気が低下しています。このようにデザインや仕様が陳腐化し、物件の競争力が低下することで、賃料を維持できない、空室率が高まるといった問題が生じてしまいます。
老朽化不動産のリスク❸ 次世代の負担
3つ目は、「資産承継」の際のリスクです。
前述のように、老朽化不動産は十分な対策をしないと競争力の低下によって収益性が低下する一方、修繕などにかかるコストや手間は増大していきます。このような不動産は、相続人からしてみれば“ありがたくない相続財産”となる可能性もあります。老朽化不動産を放置しておくと、経済的にも精神的にも負担となる財産を次世代に残してしまうことになりかねないのです。
また、承継時の相続税対策という観点でも注意すべきことがあります。賃貸アパートや賃貸マンションを相続財産とする場合、借家権割合に基づく相続税評価額の減額があり、節税効果が期待できます。しかし、この減額は実際に賃貸に供している割合に対して適用されます。そのため、長期間にわたり空室が続くと、その分は減額対象から外れ、節税効果が小さくなってしまいます。
これまで見てきたように老朽化不動産にはさまざまなリスクがあり、それを放置しておくと収益を得るどころか、出費ばかりがかさむ“負の資産”になってしまう可能性があります。そうならないために、不動産オーナーの皆様は老朽化対策について早めに検討を始めることが肝要です。